米国とEUの関税交渉妥結、米国が戦略的に投資する5大分野とは

フォンデアライエンEU委員長とトランプ

7月28日に米国とEUの関税交渉が妥結しましたが、仕事が忙しく記事の更新ができていませんでした。
主要国の関税交渉が一段落しつつある今、その内容から米国が最優先で投資する5つの分野が見えてきたため、その情報を共有したいと思います。


米国とEU、「すべての品目に15%の均一関税」ただし例外も

トランプは、「我々は自動車を含むすべての品目に15%の均一関税を適用することに合意した」と述べ、EUとの交渉結果を発表しました。
ただし、いくつかの例外があります。
鉄鋼とアルミニウムに適用されている50%の関税は引き続き維持され、医薬品は別枠、そして一部の戦略物資は無関税となります。

この「一部戦略物資の無関税化」はEU側が主張していた項目でした。
EU委員長によれば、合意された戦略品目には「航空機および関連部品、特定の化学製品、ジェネリック医薬品、半導体装置、特定の農産物、天然資源および重要原材料」が含まれ、相互に無関税措置が適用されるとのことです。


EU、米国から今後3年間で7,500億ドル相当のエネルギーを輸入へ

EUは15%の関税および一部戦略物資の無関税措置と引き換えに、今後3年間で7,500億ドル規模の米国産エネルギーを輸入することに合意しました。
EUは2028年からロシア産化石燃料(天然ガスおよび原油)を全面的に排除する方針を打ち出しています。
年間2,500億ドルという数字は、ロシア産の削減分を米国産エネルギーで代替するという意図があると見られます。

加えてトランプは、「EUは6,000億ドルを追加で米国に投資し、米国製の軍事装備も購入する」と発言しています。


米国産エネルギー輸出から見える投資のヒント

2025年上半期の実績を年間換算すると、EUは米国からLNGを220億ドル、原油および石油製品を490億ドルほど輸入しており、合計で710億ドル規模のエネルギーを米国から輸入していることになります。
一方で、EU全体のエネルギー輸入額(2025年上半期の実績を年間換算)は、LNGが480億ドル、PNG(パイプライン経由の天然ガス)が400億ドル、原油・石炭等が940億ドルで、総額1,820億ドルとなります。

このうち、LNGの47%、原油・石炭等の52%が米国産ですが、PNGは地理的にパイプライン輸入が不可能なため、米国産は0%です。

上記の数字から見ると、EUのエネルギー輸入総額は1,820億ドルであるのに対し、そのすべてを上回る米国産エネルギーを2,500億ドルも輸入するというのは現実的ではありません。

また、2025年上半期実績の年間換算では、米国は全世界に対して原油を940億ドル、天然ガスを1,520億ドル、合計で2,460億ドル相当を輸出しています。
つまり、2,500億ドルという数字は、現在の米国のエネルギー輸出全体に相当します。

この状況下で、米国がそのすべてをEUに輸出するというのは非現実的な数字と言えます。

 

現在、米国のエネルギー輸出インフラ投資はLNGに集中しています。
2026年までに米国のプラケマインズおよびゴールデンパスLNGターミナルが完成し稼働すれば、輸出量は現状より24%増加する見込みです。
しかしそれでも、2,500億ドル相当をEUに輸出できるだけの供給量を確保するのは難しいです。

このような現状を踏まえると、EUは米国にそのようなエネルギー供給能力が存在しないと計算した上で、高額な数字を掲げて関税引き下げ交渉を進めたと解釈できます。

米国とEUの間には大西洋が横たわっており、ロシアのようにパイプラインによる天然ガス供給は困難です。
米国がエネルギー輸出能力を向上させるためには、LNGターミナルの拡張とともに、LNGを輸送するための「LNGタンカー」の発注が不可欠です。

LNGタンカーは韓国が強みを持っており、現代尾浦造船、HD韓国造船海洋、サムスン重工業などの銘柄に注目する必要があります。


米国が戦略的に投資する5つの分野

米国と主要国の関税交渉がある程度まとまりつつある中で、米国の意図は明確になってきました。
米国が戦略的に投資している分野は以下の5つです。

  1. エネルギー

  2. 半導体

  3. レアアースをはじめとした重要鉱物の採掘および精錬

  4. 医薬品および医療

  5. 造船業(商用および防衛産業)

これら5つの分野は、少なくともトランプ政権下においては資金が集中せざるを得ない構造となっているため、今後の投資先として注目すべきだと考えています。

日米関税交渉の発表内容に見られる両国の意見の食い違い

 

7月もそろそろ終わりを迎えますね。
今月は仕事が忙しく、記事の更新があまりできませんでした。
8月には少し余裕があることを願っています。

さて、今回は日米関税交渉の結果に関して、日米両国の発表内容に相違が見られたため、その点を中心に整理してみたいと思います。

 

今回の貿易交渉を簡単にまとめると、

  • 関税を相互に15%に設定
  • 日本が米国に5,500億ドルを投資し、その収益の90%を米国側が得る

という内容です。
ただし、この5,500億ドルの対米投資に関して、両国の立場に隔たりがあります。

 

日本政府関係者によると、トランプが合意を急ぎ始めたのは、参議院選挙で自民党が敗北し、石破首相の退陣論が浮上したことで、新首相の就任まで交渉が長期化することを米国側が懸念したためだそうです。
さらに、トランプは現在、エプスタイン関連の問題で支持率が大きく揺れており、それを打ち消す強力な話題が必要だったと見られます。

 

武器購入に関しても、日米で発表内容に違いが見られます。
トランプは自身のSNSで「日本が数十億ドル相当の米国製防衛装備品を購入することに同意した」と述べました。
しかし、米国のホワイトハウスの声明では「年間数億ドルの追加購入」という表現にトーンダウンしています。
一方、日本の赤澤経済再生担当相は「米国製防衛装備品の購入拡大については言及されていない」と回答し、林官房長官も「米国側の発表は新たなものではなく、既に決定されている防衛力整備計画に基づいたものである」と説明しました。

最大の焦点:5500億ドルの対米投資

ホワイトハウスのKaroline Claire Leavitt報道官は記者会見で、「合意のポイントは、トランプ大統領が米国産業の活性化のために日本に5,500億ドルの投資を約束させた点にある。この資金は大統領の指示に従って各プロジェクトに投入される」と述べました。
つまり、米国側はこの5,500億ドルという金額を強調しています。

当初、日本は4,000億ドルを提示したところ、トランプがこれを5,000億ドルに引き上げ、最終的にはさらに500億ドルを追加で要求したと言われています。
日本はこれを最終的に受け入れており、金額面での相違は両国間にはありません。

資金の使い道に関する食い違い

ただし、資金の使途については見解の相違があります。
米国のラトニック商務長官は「融資や保証だけでなく、米国企業への出資も含まれる」と述べています。
一方、日本側は「日本企業による対米投資に対して、政府系金融機関が融資または保証を行う形式であり、実質的な財政支出ではない」としています。

つまり、日本側の主張としては、米国企業に直接資金が渡るわけではなく、日本企業が米国へ投資する際の支援として融資や保証を行うという意味です。
融資や保証の対象はあくまで日本企業であり、保証であれば実際に資金が出ていくことはありません。

ただし、収益の90%を米国側が得るという点について、日本側関係者は「投資案件ごとに米国側の出資比率が高ければ、利益配分構造が変わる可能性があり、そのような数字も出てくるだろう」と説明しています。

合意不履行時の関税再引き上げ発言と日本側の否定

ベセント米財務長官はFOXニュースのインタビューで、「日本が合意を履行しない場合、自動車などへの関税を再び25%に引き上げることができる」と述べました。
これに対し、赤澤経済再生担当相は「トランプ大統領や米国政府関係者とそのような議論を行った事実はない」と否定しています。
また、日本政府関係者は「両国が拘束力のある合意文書に署名したわけではなく、大枠では合意したものの、詳細については一致していない」との立場を示しています。
来週中にも、両国の共通認識をまとめた文書を作成する方針ですが、その文書に拘束力のある署名は行われない見通しとのことです。

まとめ

ここまでの内容から分かるのは、参議院選挙とエプスタイン問題の影響で時間が足りなくなった両国が、まずは交渉が進展しているという印象を与えるために、正式な合意文書を作成することなく発表を行った結果、解釈の違いが生じているということです。

日本政府は「交渉カードをすべて出さずに交渉が終わったので安心している」との見解も示しました。
両国とも「自分たちが勝った」と成果を強調していますが、結論としては、現時点では首脳レベルでの協議のみが行われ、詳細な協議は完了していない状況です。

両国間の認識の差異を調整するための実務レベルの議論には、まだ多くの摩擦要因が残されており、今回の交渉は「終わり」ではなく「始まり」に過ぎないという印象です。

パラダイム投資とは何か?(中長期投資戦略)

アマゾンの株価チャート

アマゾンの過去の株価チャートを見て、多くの人はこう言います。

「アマゾンが1ドルだったときに買うべきだった!」

しかし、その当時アマゾンを買えた人はほとんどいなかったと思います。

当時のアマゾンは、単なるオンライン書店に過ぎず、年間赤字を計上し、ビジネスモデルの持続可能性さえ疑問視されていました。
後にAWSによって収益モデルが大きく変わることは誰も予想していなかったでしょう。

しかしその頃ですら、アマゾンは時価総額ランキングで徐々に上位に上がりつつある兆候を見せていました。

ポイントはシンプルです。
「市場のパラダイムが変わるタイミングで主導権を握った企業は、必ず時価総額上位に名を連ねる。」

そして、その瞬間を逃さないことが「パラダイム投資」の本質です。

短期の値動きやテクニカル分析に振り回されるのではなく、社会を根本から変える潮流(パラダイム)を見極め、その波をいち早く掴むことで、大きなリターンを狙う考え方です。

 


パラダイム投資とは何か?

パラダイム投資とは、社会や産業構造を根本から変える「時代の大きな潮流」に着目し、その変革を牽引する企業に中長期的に投資するアプローチです。

例えば、iPhone登場前のアップル、YouTube買収前のグーグル、クラウド市場を切り開いたアマゾン、電気自動車を大衆化させたテスラ、そしてAIパラダイムを先導するエヌビディアが代表的な事例です。

 

これらの企業は初期の段階では、多くの場合批判や嘲笑の対象でした。
特にテスラは数年間赤字を計上し続け、「すぐに倒産する企業」と評されていました。
しかし現在では電気自動車市場の絶対的なリーダーに成長しています。

ポイントは、“まだ主流ではないが、やがて社会の基盤になるであろう技術やサービス”を見極めることにあります。
単なる成長株への投資とは異なり、社会全体が変化するタイミングでリーダーシップを握る企業を探すのが核心です。

 


過去のパラダイムシフト事例

グーグル:YouTube買収と検索の支配

2006年、グーグルは当時年間約1億ドルの赤字を出していたYouTubeを約16億ドルで買収しました。
この決定は多くの専門家から嘲笑されました。しかし結果は大成功でした。
現在、YouTubeは世界最大の動画プラットフォームであり、グーグルの主要な収益源となっています。広告収入だけで年間数兆円規模に達しています。

アップル:iPhoneで世界を変えた

2007年にiPhoneを発表した当時、アップルの時価総額はわずか500億ドルでした。(現在は3兆ドル超)
多くの投資家はスマートフォン市場での成功可能性を低く見積もっていましたが、iPhoneはゲームチェンジャーとなりました。
2011年、アップルはエクソンモービルを抜いて時価総額1位となり、その後も急成長を続けていました。

マイクロソフト:クラウドパラダイムの勝者

マイクロソフトはPC中心の時代からモバイル時代への移行期に、モバイルの一時は危機論に直面しました。
しかしサティア・ナデラCEO就任後、クラウドサービス「Azure」に注力し、企業は完全に新しい姿に生まれ変わりました。
現在、マイクロソフトはPC、クラウド、AIを主導する世界最高の企業の一つです。

 


パラダイム投資の5つの基準

1. 世の中がその方向へ進んでいるか

AI、電気自動車、クラウドなど技術の変化の方向性を把握することが重要です。
私たちの生活に浸透しつつある分野に注目する必要があります。

2. 先行者優位性があるか

どれだけ革新的なアイデアでも、参入障壁が低い市場では競争が激化し、先行者利益が薄れます。
AppleがiPhoneで築いた生態系や、Netflixがストリーミング市場で築いたポジションのように、先行者が優位性を持つ構造かが鍵です。
後発企業ではなく、先行企業に投資したほうが成功の可能性が高いです。

3. メディアや世間の注目を集めているか

話題になった時点で「もう遅い」と考える投資家もいますが、必ずしもそうではありません。
本当のパラダイムであれば、メディアで取り上げられる頃でも成長余地が大きく、株価がその後何倍にもなることが多いです。

4. 個人が日常的に利用しているか

パラダイムを変えるのは、多くの場合B2C企業です。
iPhoneのように、一般消費者の生活に深く入り込む企業は市場を支配しやすいです。

5. 他産業との融合が進んでいるか

iPhoneが単なる通信機器ではなく、カメラ、音楽、インターネット、決済など他分野を統合したように、産業横断的な影響力がパラダイムの条件です。


過去・現在のパラダイムを牽引した企業

 AppleのiPhone革命

2007年に登場したiPhoneは、電話という単機能デバイスを“生活の中心ツール”へと進化させました。
その後のアプリエコシステムも含め、産業構造全体を変えた例です。

Teslaと電気自動車

テスラはEVの量産・黒字化に成功し、環境問題を追い風に急成長しました。
最初は「破綻寸前のスタートアップ」と見られていましたが、いまや自動車業界のパラダイムシフトを象徴する存在です。

NVIDIAとAI・暗号資産

NVIDIAはもともとGPU企業として知られていましたが、AIとデータセンター市場での需要が急増しています。
初期の成功は暗号資産マイニング需要でしたが、その後AI市場にシフトし、GPUがAIの“心臓”として位置付けられました。
特にChatGPTブームはエヌビディアの成長を加速させています。

 


次に来るパラダイムは?

AI(人工知能)

AIはすでに社会に浸透しています。MicrosoftはOpenAIとの提携で強力なポジションを確立し、GoogleもDeepMindで多角的なAI統合を進めています。
AIは今後、社会基盤として不可欠な存在になるでしょう。

ドローンと防衛

戦争の様相はドローン中心に変化しています。
Palantir(PLTR)、AeroVironment(AVAV)やKratos Defense(KTOS)は軍事ドローンの分野で台頭しており、将来的には民間応用も期待されています。
地政学リスクの高まりがこの分野を後押ししています。

ロボットと自動化

Amazonは物流倉庫の自動化を進め、Symbotic(SYM)は他社向けにAIベースの自動化ソリューションを提供しています。
労働力不足と人件費高騰がロボット導入を加速させています。

ヘルスケア

Novo Nordiskの肥満治療薬「オゼンピック」や、Google傘下のCalicoによる抗老化研究など、ヘルスケア分野が注目されています。
もし「薬で老化を治療する時代」が来れば、想像を超える市場が開かれるでしょう。

 


まとめ

パラダイム投資は、短期的な株価変動に一喜一憂せず、社会を変革する企業に長期的に投資する戦略です。

パラダイムシフトは一夜にして起こるものではありません。
技術の成熟、赤字企業の黒字転換、消費者の使用拡大が積み重なることでチャンスが開かれます。
現在もAI、ロボット、ヘルスケア、防衛産業などにおいて過小評価されている企業が存在します。

アマゾンを1ドルで買えなかったとしても、10ドル・20ドルでも買うチャンスは常にありました。
パラダイム形成期であれば「遅すぎる」ことはなく、長期的な視点で投資する価値は十分にあります。

米国時価総額変化
(出典:東証マネ部)

時価総額上位の企業を定期的に確認し、市場トレンドを把握するとパラダイムが見えてきます。
変化の兆しを見逃さず、未来を先取りする視点を持つことが、投資で大きな果実を得る鍵になります。

Genius Act法が可決 ー 仮想通貨市場の拡大(イーサリアム)

最近本業のほうが忙しく記事の更新ができていませんでした。

 

以前の記事で何回もイーサリアムの可能性について紹介したことがあります。

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イーサリアムのチャート

2025年5月7日に1,800ドル前後で取引されていたイーサリアムは、Pectra(ペクトラ)アップグレード後に2,500ドルを突破し、現在は3,600ドルを超えています。

 

仮想通貨については、つい前までも(今でも)「価値のないものに投資してどうする」と冷ややかな声も少なくありませんでした。
しかし、世界最大の資産運用会社である「ブラックロック」が暗号資産市場に参入し、状況は一変しています。
そして今、伝統金融の分野までもが暗号資産に門戸を開きつつあります。


最近ではトランプがアメリカの退職年金(401k)に暗号資産投資を認める大統領令を推進しているとの報道がありました。
これは、ビットコインとイーサリアムにとって極めて大きな追い風になる可能性があります。


退職年金・プライベートエクイティも暗号資産へ

フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、トランプは9兆ドル規模の401k退職年金口座で、従来の株式や債券に加え、暗号資産、金、プライベートエクイティ(PE)投資を許可する大統領令に近日中に署名する予定です。

この動きは、ブラックストーン、アポロ、ブラックロックといった世界有数のPE運用会社にとっても好材料です。
近年、年金基金や大学基金など既存の機関投資家からの資金調達が難しくなっていた中、個人投資家の退職年金マネーを呼び込むことは業界にとって重要な成長戦略です。

かつて「投機的」とされていた暗号資産が、今や退職年金という超長期資金の投資先として検討される段階に入っています。


イーサリアムが上昇する2つの理由

1. 供給不足が生む強烈な買い圧力

現在、米国での現物ETFに資金が流入しており、その規模は過去最高を記録しています。
ETFによって個人投資家だけでなく機関投資家も容易にイーサリアムにアクセスできるようになり、長期保有を前提とした買いが増加しています。
これにより市場の流動性は徐々に低下しています。

実際、取引所に残るイーサリアムの量は過去最低水準まで減少中です。
さらに、全イーサリアムの約29%はステーキング(ネットワークに預けて報酬を得る仕組み)でロックされ、市場にすぐ戻ることはありません。
米国のロビンフッドがステーキングサービスを開始したことも、投資家の参加を加速させています。

2. ネットワーク内の経済活動が活発化

イーサリアムのネットワークでは、ステーブルコインの発行量が史上最高に達しています。
これはネットワーク内での取引やサービス利用が活発化している証拠です。
DeFi(分散型金融)やNFT、その他のアプリケーションが成長するにつれて、基盤となるイーサリアムの需要も必然的に増加します。

興味深いのは、ヘッジファンドのような大口投資家の動きです。
彼らは現物イーサリアムを大量に買い、ステーキングで年3〜4%のリターンを得ながら、同時に先物市場でヘッジを行う「低リスク運用」を展開しています。
この戦略が成り立つためには、現物イーサリアムの大量確保が不可欠です。


アメリカの規制緩和が後押しする未来

さらに米国議会では、暗号資産関連の3つの法案が次々と通過しました。中にはステーブルコイン規制やCBDC(中央銀行デジタル通貨)禁止法案も含まれ、民主党・共和党を超えた支持が広がっています。

これらの流れは、暗号資産市場全体の信頼性を高め、イーサリアムのような主要銘柄への資金流入をさらに後押しするでしょう。


まとめ

すべての要素を総合すると、イーサリアムを取り巻く状況は極めてシンプルです。

  • 買い手は増加

  • 売りに出せる供給は減少

  • ネットワークは拡大中

短期的な調整はあるかもしれませんが、長期的には上昇が避けられない構造が出来上がっています。
イーサリアムを理解することは、単なる投資判断に留まらず、未来の金融エコシステムを読み解くことと同義です。

迷いよりもデータを、恐怖よりも記録を重視するべきタイミングが来ています。

ボーイングの航空機事故が多い理由(ボーイング vs エアバス)

インドの旅客機墜落事故に関するブラックボックスの第一次予備調査結果が公表されました。
当時の状況を振り返り、問題点を確認したいと思います。

事故の概要は以下の通りです。

  • インド・アーメダバード空港を離陸中のエア・インディア所属ボーイング787-8ドリームライナーが、空港近くの医科大学の寮に衝突

  • 搭乗者242人のうち241人と、寮の学生33人が死亡

  • 事故機は2011年から運航されていた最新機種で、ドリームライナー初の墜落事例

  • 離陸直後は正常に飛行していたが、7秒後に1番エンジンが、さらに1秒後に2番エンジンが停止し推力を喪失

  • 10秒後に両エンジンの再始動を試み、1番エンジンは始動に成功したが2番エンジンは失敗

  • ブラックボックスにはパイロット間の「なぜスイッチを切った?」、「切ってない」という会話が記録

  • 現時点で判明している原因は燃料遮断による両エンジン停止

  • ソフトウェア不具合の可能性は低く、機械的または人的要因が疑われている

上記の事故概要を見ると、過去のボーイング737 MAX連続墜落事故のようなシステム欠陥ではなく、人的要因による事故のように見えます。

航空機産業は現在、ボーイングとエアバスという2社の競争構造になっています。
この2社を比較すると、設計思想において興味深い違いがあります。


ボーイング:「操縦の最終権限は常にパイロットに」

ボーイングは「飛行機を制御する最終権限は常にパイロットにある」という前提でシステムを設計しています。
機械は完璧ではないため、人間が制御し、機械は人間を補助するという考え方です。

このため、ボーイングのコックピットはパイロットの操作に忠実に反応します。
たとえ急降下操作であっても、飛行機は墜落するリスクがあってもパイロットの命令に従います。


エアバス:「人間はミスをする存在」

一方、エアバスは「人間はミスをする存在」という前提でシステムを設計します。
人間は完璧ではないので、コンピュータが人間のミスを監視し、制御すべきだという考え方です。

このため、エアバスではパイロットが急降下を試みても、通常の範囲を超える操作は制限されるよう設計されています。



つまり、「人間を信じるか、コンピューターを信じるか」という哲学の違いが、ボーイングとエアバスの最大の違いです。

 

まだ予備調査段階なので断定はできませんが、今回のインドの墜落事故は飛行機自体の問題ではなく、パイロットによる問題の可能性が疑われています。
「機械は完璧ではないので人間が制御すべき」というボーイングの哲学よりも、「人間は完璧ではないのでコンピュータが人間のミスを監視し制御すべき」というエアバスの哲学の方が現時点では正解に近いと感じます。

 

こうした企業の信念は株価にも表れており、ボーイングは株価が低迷している一方で、エアバスは上昇基調を続けています。

ボーイングの株価

エアバスの株価

トランプがブラジルに50%の関税を予告する理由(BRICS共通通貨)

トランプがブラジルに対して50%の関税を予告しました。
その背景について整理してみたいと思います。


対立の発端はBRICSから

両国間の対立はBRICSに端を発します。
BRICSとは、ゴールドマン・サックスのジム・オニールがブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の頭文字を取って作った言葉です。

2001年にこの言葉が生まれた当時、BRICSの世界GDPに占める割合はわずか8%程度でした。
しかし現在、BRICSは世界GDPの33%まで成長しています。
さらに人口面では、世界人口の42%にあたる32億人を抱える巨大な経済圏となっています。

 

BRICSはその規模をさらに拡大しつつあります。
イランとアルゼンチンが加盟申請を行い、UAE、アルジェリア、エジプト、インドネシア、カザフスタン、セネガル、ウズベキスタン、カンボジア、エチオピア、フィジー、マレーシア、トルコ、タイなども加盟を検討中です。
サウジアラビアは申請ではなく招待という形で加盟を果たしました。


中国とロシアの狙いはBRICS共通通貨

BRICSを主導する中国とロシアの最大の目標は、「BRICS共通通貨」の創設です。
2022年6月、中国・北京で開かれたBRICSフォーラムの基調演説でプーチンは、「BRICS主導の国際通貨を作ろう」と提案しました。

これはドルに代わる新しい国際通貨を生み出し、米国中心の国際経済秩序から脱却しようという試みです。
これに対し習近平は「世界経済の政治化、道具化、武器化、そして国際金融・通貨システムにおける主導的地位の利用は世界に災厄をもたらす」と米国を非難し、プーチンの提案に即座に同調しました。

 

プーチンの提案は具体的な段階を経て進められています。
まず第1段階として、BRICS諸国間の貿易決済を米ドルではなく人民元で行う計画です。
ただし原油取引は含めず、ペトロダラーに直接触れない形で人民元決済を推進しています。

これに最初に賛同した国がブラジルです。
さらにブラジルは、決済プラットフォームとして米国主導のSWIFTではなく、中国主導のCIPSを使用することを決定しました。

 

現在、原油代金を人民元で決済している国はロシア、イラン、ベネズエラの3カ国で、いずれも米国の厳しい制裁下にあります。
ブラジルはこの3カ国に次ぐ、制裁直前の段階にあると言えます。


ブラジルのルラ政権

ブラジルがこのような姿勢を取る背景には、政権交代の影響が大きいです。
現ブラジル大統領のルラは、主要企業の国有化、対外債務の返済拒否、全面的な土地改革など、急進左派政策を信念とする人物です。

ルラは過去に大統領選で敗北した後、「中道層の支持を得られなかったことが敗因」と分析し、路線を中道右派に変更しました。
企業国有化や外債返済拒否、土地改革といった左派的政策を公約から外し、「経済優先」の中道右派的な公約を掲げて4度目の挑戦で当選しました。

しかし、ルラは再選を目指さないと宣言しているため、現任期中に隠してきた左派本能を露わにする可能性が高い状況です。


人民元決済のリスクと中国の解決策

ブラジルが人民元決済を受け入れるにあたり、1つの問題があります。
「米ドルは信用できないとしても、人民元は信用できるのか」という点です。

これに対し中国は、金とレアアース(希土類元素)を担保とするステーブルコインをBRICS共通通貨として提案しています。
中国が金保有量を増やし続け、レアアース管理を強化しているのは、人民元を国際通貨化するためでもあります。

BRICS共通通貨は、BRICS諸国が保有する金やレアアースの価値に裏付けられたステーブルコインとして発行され、価値の安定が図られます。

 

現在、米ドルの問題は米国が好き勝手にドルを発行し、インフレを引き起こしてドルの価値を下げていることにあります。
一方、BRICSの暗号通貨は金とレアアースで支払いを保証するため、インフレ防衛が可能だと主張しています。

レアアース埋蔵量は中国36.7%、ブラジル13.3%、ロシア15.0%、インド5.8%で、BRICS全体で70.6%を占めます。
金は別としても、レアアースに関してはブラジルもステーブルコイン発行の潜在力があり、BRICS共通通貨に積極的です。


チャンカイ港問題と米国の警戒

さらにブラジルと米国の対立要因として、ペルーのチャンカイ港があります。
2024年11月、中国はペルーの首都リマから80kmの場所にあるチャンカイに港を建設しました。

この港の権利の60%を中国遠洋海運集団(COSCO)が所有しており、実質的に中国が運営する南米初の港です。
チャンカイ港はペルーにあるものの、ブラジルとも密接に関係しています。
ブラジルは中国資金の支援を受け、チャンカイ港からブラジルまで鉄道などを敷設する35億ドル規模のプロジェクトを進めています。

チャンカイ港の影響

この鉄道が完成すれば、中国などアジア諸国との輸送時間は35日から10日に短縮され、ブラジルは大豆や鉄鉱石などの主要輸出品をより容易に中国へ輸出できるようになります。

米国は中国とブラジルの接近を快く思わず、チャンカイ港が中国の軍事拠点化することを懸念しています。

 

現在、ブラジルの対米貿易収支は赤字であり、米国向け輸出はGDPのわずか1.7%に過ぎません。
このため、ブラジルは米国の50%関税に強く反発する可能性が高いです。

ルラは再選を放棄しているため、GDPの1.7%程度であれば中国向けに輸出先を転換することで十分補えると考えており、米国に屈する理由がありません。

銅価格急騰の理由(銅に50%関税)

銅の価格

銅の価格が急騰しました。
これはトランプが銅に対して50%の関税を課すと発表したためです。

6月17日に、今年は金・銀・プラチナよりも銅が投資先として有望かもしれないという記事を書いたことがあります。

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銅が投資先として優れている理由を一言でまとめると、

「電気があるところには必ず銅があり、その銅がますます希少になっている」からです。

銅は世界中に広く分布していますが、鉱山はチリに集中しており、世界の銅の約3分の1がチリで生産されています。
アメリカも輸入する銅の65%をチリから調達しています。

チリの銅も採掘量が増加するにつれて採掘難易度が上がり、それに伴い採掘コストも上昇しています。

供給が難しくなる一方で、データセンターや電気自動車などによる銅の需要は爆発的に増加しています。
2030年には2,150万トンの銅が不足するという見通しさえ出ています。


関税は貿易拡張法232条に基づき実施

今回の銅に対する関税は、相互関税とは別に「貿易拡張法232条」に基づいて進められます。
トランプは2025年2月、銅の輸入が国家安全保障に与える影響を調査するよう指示しました。
米国の商務省は270日以内に調査結果を提出しなければならず、その後トランプは調査結果が出てから90日以内に関税を決定できます。

ただし、商務省は2025年11月までに結果を提出する予定ですが、スケジュールを前倒しし、7月中に調査結果が出るという噂も流れています。
調査結果が出次第、トランプは即座に関税を決定する可能性があります。

つまり、早ければ7月末から8月初旬にも銅に関税が課される可能性があります。

現在、アメリカは銅の55%を自国で調達し、残り45%を輸入しています。

これはアメリカ国内に銅鉱山がないからではなく、製錬インフラが不足しているため、輸入に頼らざるを得ない状況です。
関税が課されれば、輸入銅の価格は上昇し、アメリカ国内の製錬インフラへの投資動機が生まれます。


銅は交渉カード?

トランプは当面の関税交渉で銅を交渉カードとして活用する可能性もあります。
アメリカが輸入銅に高い関税を課すと、中国は銅および銅を含む製品の対米輸出に支障をきたします。
日本も、銅を使用する電子機器や自動車の輸出で打撃を受けることになります。

つまり、トランプは銅を交渉材料に使い、他の分野で譲歩を引き出す戦略を取ると予想されます。

銅は用途が非常に多いため、銅価格の上昇はインフレーションを広範囲に刺激する可能性が高いです。

インフレが進行するとトランプ自身にとっても厄介な状況となるため、銅はあくまで交渉相手国に圧力をかけるカードとして使う程度ではないかと考えられます。

トランプ、日本に25%の関税を課す

トランプの日本に対する関税

2025年7月8日、トランプが日本との相互関税に関する内容を公開しました。

やはり米国は自国の自動車産業を守るために、日本の自動車にこれ以上の優遇措置を与えるつもりはないようです。

まず、公開された関税に関する内容を確認してみたいと思います。

 

この書簡をお送りできることを非常に光栄に思います。
これは、我々の貿易関係の強固さと献身、そして米国が貴国との多大な貿易赤字にもかかわらず、日本と引き続き協力していくことに合意した事実を示すものです。
それにもかかわらず、我々は貴国とよりバランスが取れ、公正な貿易関係を通じて共に前進することを決定しました。
したがって、世界最大の市場である米国経済に対して特別な協力をお願い申し上げます。

我々は長年にわたり日本との貿易関係について議論を重ねてきましたが、日本の関税・非関税政策および貿易障壁によって引き起こされる長期的かつ非常に持続的な貿易赤字から脱却すべきとの結論に至りました。
残念ながら、我々の関係は相互に利益をもたらすものではありませんでした。

2025年8月1日以降、米国に輸出されるすべての日本製品に対し、各分野の既存関税とは別に25%の追加関税が課されます。
また、より高い関税を回避するために第三国経由で迂回輸出された商品にもこの関税が適用されます。
25%という数字は、貴国との貿易赤字の差を解消するために本来必要とされる水準よりもはるかに低いものです。

ご承知の通り、日本または貴国企業が米国内で製品を生産・製造することを決定した場合には、この関税は適用されず、迅速かつ専門的に、そして定期的に(つまり数週間以内に)承認を得るために最大限の努力を尽くします。

何らかの理由で貴国が関税を引き上げる決定をされた場合、その引き上げ分は我々が課す25%に上乗せされることになります。
この追加関税は、長年にわたる日本の関税・非関税政策および貿易障壁が米国に持続不可能な貿易赤字をもたらしたことを是正するために必要であることをご理解ください。
こうした赤字は、我々の経済のみならず国家安全保障にとっても重大な脅威となっています!

 

内容をまとめると

トランプは8月1日から25%の関税を課すことを正式に通知しました。
さらに、8月1日には今回通知した25%の関税が引き上げられる可能性もあり、逆に引き下げられる可能性もあるとし、それまで誠実に交渉に臨むよう求めています。
また、もし日本側が貿易報復に出た場合は、関税をさらに引き上げると警告しています。

数日内に他の国々についても関税発表が続くとされているため、欧州やインドなど主要国に対する関税発表を注視することで、今の関税率が適切かどうか、より正確な比較ができると思います。

しかし、4月に予告されていた24%の関税率から1%引き上げられ25%となったことは、トランプが日本の関税交渉態度に強い不満を抱いていることを示唆していると解釈できます。

同盟国である日本に対し、英国の10%、ベトナムの20%よりも高い関税率が適用される点を見ると、果たして日本が交渉を適切に進めていたのか疑問が残ります。

この夏、超熱帯夜が訪れるのか?

5月末までは例年よりも肌寒く感じられましたが、わずか1ヶ月で外出が困難なほどの猛暑が訪れています。
なぜ今年の夏はこれほど暑いのか、その理由を整理してみたいと思います。


貿易風とエルニーニョの関係

地球が西から東へ回転すると、東から西へ吹く風が発生します。
大航海時代、船はこの東から西への安定した風を利用して大洋を渡り、貿易を行いました。
この風は「貿易風」と呼ばれるようになりました。

この貿易風は太平洋の海水を西へ押しやります。
貿易風が太平洋中央の海水を西へ運ぶ過程で、海底の冷たい海水が上昇します。
このとき、海底にあった栄養素が海水とともに上昇し、豊かな漁場が形成されます。

しかし、原因不明で貿易風が弱まることがあります。
この場合、海底から冷たい海水が十分に上昇せず、表層に栄養が少なくなるため、魚が海面近くに現れません。
エクアドルではクリスマスシーズンに数年おきに魚が捕れなくなる現象が起こり、エクアドルの漁師たちはこれをイエスからのクリスマス休暇という意味で、「エルニーニョ(幼いイエス)」と呼ぶようになりました。

 


エルニーニョがもたらす地域ごとの影響

エルニーニョ期の海面温度上昇は地域ごとに異なる影響を与えます。
インド、パキスタン、タイ、ラオス、ミャンマーなどの東南アジア、中東、中国全域では猛暑が発生します。
一方、中南米やオーストラリアでは深刻な干ばつが続きます。

オーストラリアの干ばつは山火事を引き起こし、中南米の干ばつはパナマ運河の運航を制限し、コンテナ運賃指数を急騰させます。

また、エルニーニョが発生すると穀物価格の変動幅が大きくなります。
トウモロコシの生産量世界一は米国で、世界の30%が米国産です。
エルニーニョ期には米国中西部に例年より湿潤な気候が形成され、降水量が増えトウモロコシが豊作になります。

一方で、米国北部とオーストラリアは干ばつに見舞われ、小麦の主要産地である両地域の生産量が減少します。
結果として、トウモロコシ価格は下落し、小麦価格は上昇します。

 

米国でのトウモロコシの豊作は原油価格にも影響します。
毎年1億8000万トンのトウモロコシがバイオ燃料に加工され、ガソリンと混ぜて供給されています。
豊作により価格が下がったトウモロコシが大量にバイオ燃料へと転換されると、原油価格の下落要因になる可能性があります。


ラニーニャとその影響

一方で、エルニーニョとは逆の現象であるラニーニャが発生すると状況は一変します。
ラニーニャ(スペイン語で「女の子」)は貿易風が強まったときに起こります。
強い貿易風によって海底の冷たい海水が大量に上昇し、太平洋の水温が低下します。

夏にラニーニャが発生すると、米国西部は干ばつに見舞われ、オーストラリア、東南アジア、中国では豪雨や洪水が発生し、穀物価格が上昇します。
洪水は鉱山を水没させ、鉱物輸送にも支障をきたします。

 

冬にラニーニャが起これば、ヨーロッパや米国を含む北半球に厳しい寒波をもたらし、暖房需要を押し上げます。
エルニーニョからラニーニャへの転換期には、夏から冬まで冷暖房用の電力と天然ガスの需要が増加し続けます。

 

電力需要が急増すると、アルミニウム価格にも影響します。
アルミニウムは原料のアルミナよりも電気代の方がコスト比率が高く、製造コストの37%が電力料金です。



まとめると、穀物、電力、アルミニウム、天然ガス価格を刺激するのがラニーニャです。
そして現在、ラニーニャが徐々に始まりつつあります。
エルニーニョからラニーニャへの移行が起こる年は、夏が長引き、猛暑が激しくなる傾向があります。

ラニーニャが近づいているため、穀物、天然ガス、アルミニウムの価格動向に注目する必要があります。
参考までに、猛暑が厳しくなると、空調、電力、飲料関連の株が上昇する傾向があります。

「歯が生え変わる薬」登場へ:インプラント不要の未来は近い?

人間は20代から歯が徐々に劣化し始めます。
平均寿命が延びるにつれて歯に問題が生じるケースが増え、最近ではインプラントを選ぶ人が多くなっています。

 

過去には入れ歯が主流でしたが、入れ歯は顎の骨ではなく歯茎から支持力を得る仕組みです。
そのため、入れ歯による持続的な圧力で歯茎と歯槽骨が損傷する副作用がありました。

 

現在広く行われているインプラントは、歯茎ではなく顎骨に穴を開けてネジを埋め込み、その上に人工歯を取り付ける方法です。
入れ歯に比べて歯槽骨や歯茎の損傷が少なく、咀嚼力も入れ歯の5倍以上とされており、インプラントを選択する人が増えています。
しかし、ネジを埋め込んだ部分で炎症が起きたり、歯茎や顎骨が損傷した場合、インプラントができないこともあります。

 

人間の場合、永久歯が一生に一度しか生えないことが根本的な問題です。
他の動物と比べると、サメは数百本の歯を持ち、歯が抜けても新しい歯が次々と生えてきます。

サメの歯

 

サメの歯を研究していた科学者たちは、人間にも「Tooth Bud(歯の芽)」が存在することを確認しました。

 

人間にもTooth Budが存在しますが、「USAG-1」というタンパク質がTooth Budの歯への成長を阻止していることが判明しています。
2018年、マウスに対してUSAG-1タンパク質を抑制したところ、新しい歯が生えてくることが確認されました。
乳歯と永久歯の両方を持つマウスでも新しい歯を生やすことに成功したのです。

 

次に必要なのは、人間で新しい歯が生えるかどうかの実験です。

2025年9月、日本の「トレジェムバイオファーマ」は、虫歯などで一部の歯を失った30〜64歳の男性を対象に、薬剤の安全性や副作用を評価する第1相臨床試験を開始します。
2026年に第2相、2027〜2029年に第3相を実施し、2030年には健康保険適用を目指す計画です。

 

新しい歯を生やす効果は期待されていますが、副作用の有無が鍵を握ります。
臨床試験が成功し商用化されれば、入れ歯やインプラントではなく「自分の新しい歯を生やす時代」が到来するかもしれません。
ただし、トレジェムはこの薬の価格を150万円と設定しており、インプラントや入れ歯より高額になる見込みです。

長寿社会では歯の健康がますます重要です。
入れ歯やインプラントといった選択肢もありますが、やはり「自分の歯」が最も理想的です。
薬の価格が高くても需要は十分にあるでしょう。

人間の寿命が延びるほど、シルバービジネスの市場は今後も拡大せざるを得ない環境にあります。