
7月28日に米国とEUの関税交渉が妥結しましたが、仕事が忙しく記事の更新ができていませんでした。
主要国の関税交渉が一段落しつつある今、その内容から米国が最優先で投資する5つの分野が見えてきたため、その情報を共有したいと思います。
米国とEU、「すべての品目に15%の均一関税」ただし例外も
トランプは、「我々は自動車を含むすべての品目に15%の均一関税を適用することに合意した」と述べ、EUとの交渉結果を発表しました。
ただし、いくつかの例外があります。
鉄鋼とアルミニウムに適用されている50%の関税は引き続き維持され、医薬品は別枠、そして一部の戦略物資は無関税となります。
この「一部戦略物資の無関税化」はEU側が主張していた項目でした。
EU委員長によれば、合意された戦略品目には「航空機および関連部品、特定の化学製品、ジェネリック医薬品、半導体装置、特定の農産物、天然資源および重要原材料」が含まれ、相互に無関税措置が適用されるとのことです。
EU、米国から今後3年間で7,500億ドル相当のエネルギーを輸入へ
EUは15%の関税および一部戦略物資の無関税措置と引き換えに、今後3年間で7,500億ドル規模の米国産エネルギーを輸入することに合意しました。
EUは2028年からロシア産化石燃料(天然ガスおよび原油)を全面的に排除する方針を打ち出しています。
年間2,500億ドルという数字は、ロシア産の削減分を米国産エネルギーで代替するという意図があると見られます。
加えてトランプは、「EUは6,000億ドルを追加で米国に投資し、米国製の軍事装備も購入する」と発言しています。
米国産エネルギー輸出から見える投資のヒント
2025年上半期の実績を年間換算すると、EUは米国からLNGを220億ドル、原油および石油製品を490億ドルほど輸入しており、合計で710億ドル規模のエネルギーを米国から輸入していることになります。
一方で、EU全体のエネルギー輸入額(2025年上半期の実績を年間換算)は、LNGが480億ドル、PNG(パイプライン経由の天然ガス)が400億ドル、原油・石炭等が940億ドルで、総額1,820億ドルとなります。
このうち、LNGの47%、原油・石炭等の52%が米国産ですが、PNGは地理的にパイプライン輸入が不可能なため、米国産は0%です。
上記の数字から見ると、EUのエネルギー輸入総額は1,820億ドルであるのに対し、そのすべてを上回る米国産エネルギーを2,500億ドルも輸入するというのは現実的ではありません。
また、2025年上半期実績の年間換算では、米国は全世界に対して原油を940億ドル、天然ガスを1,520億ドル、合計で2,460億ドル相当を輸出しています。
つまり、2,500億ドルという数字は、現在の米国のエネルギー輸出全体に相当します。
この状況下で、米国がそのすべてをEUに輸出するというのは非現実的な数字と言えます。
現在、米国のエネルギー輸出インフラ投資はLNGに集中しています。
2026年までに米国のプラケマインズおよびゴールデンパスLNGターミナルが完成し稼働すれば、輸出量は現状より24%増加する見込みです。
しかしそれでも、2,500億ドル相当をEUに輸出できるだけの供給量を確保するのは難しいです。
このような現状を踏まえると、EUは米国にそのようなエネルギー供給能力が存在しないと計算した上で、高額な数字を掲げて関税引き下げ交渉を進めたと解釈できます。
米国とEUの間には大西洋が横たわっており、ロシアのようにパイプラインによる天然ガス供給は困難です。
米国がエネルギー輸出能力を向上させるためには、LNGターミナルの拡張とともに、LNGを輸送するための「LNGタンカー」の発注が不可欠です。
LNGタンカーは韓国が強みを持っており、現代尾浦造船、HD韓国造船海洋、サムスン重工業などの銘柄に注目する必要があります。
米国が戦略的に投資する5つの分野
米国と主要国の関税交渉がある程度まとまりつつある中で、米国の意図は明確になってきました。
米国が戦略的に投資している分野は以下の5つです。
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エネルギー
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半導体
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レアアースをはじめとした重要鉱物の採掘および精錬
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医薬品および医療
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造船業(商用および防衛産業)
これら5つの分野は、少なくともトランプ政権下においては資金が集中せざるを得ない構造となっているため、今後の投資先として注目すべきだと考えています。










