5月末までは例年よりも肌寒く感じられましたが、わずか1ヶ月で外出が困難なほどの猛暑が訪れています。
なぜ今年の夏はこれほど暑いのか、その理由を整理してみたいと思います。
貿易風とエルニーニョの関係
地球が西から東へ回転すると、東から西へ吹く風が発生します。
大航海時代、船はこの東から西への安定した風を利用して大洋を渡り、貿易を行いました。
この風は「貿易風」と呼ばれるようになりました。
この貿易風は太平洋の海水を西へ押しやります。
貿易風が太平洋中央の海水を西へ運ぶ過程で、海底の冷たい海水が上昇します。
このとき、海底にあった栄養素が海水とともに上昇し、豊かな漁場が形成されます。
しかし、原因不明で貿易風が弱まることがあります。
この場合、海底から冷たい海水が十分に上昇せず、表層に栄養が少なくなるため、魚が海面近くに現れません。
エクアドルではクリスマスシーズンに数年おきに魚が捕れなくなる現象が起こり、エクアドルの漁師たちはこれをイエスからのクリスマス休暇という意味で、「エルニーニョ(幼いイエス)」と呼ぶようになりました。
エルニーニョがもたらす地域ごとの影響
エルニーニョ期の海面温度上昇は地域ごとに異なる影響を与えます。
インド、パキスタン、タイ、ラオス、ミャンマーなどの東南アジア、中東、中国全域では猛暑が発生します。
一方、中南米やオーストラリアでは深刻な干ばつが続きます。
オーストラリアの干ばつは山火事を引き起こし、中南米の干ばつはパナマ運河の運航を制限し、コンテナ運賃指数を急騰させます。
また、エルニーニョが発生すると穀物価格の変動幅が大きくなります。
トウモロコシの生産量世界一は米国で、世界の30%が米国産です。
エルニーニョ期には米国中西部に例年より湿潤な気候が形成され、降水量が増えトウモロコシが豊作になります。
一方で、米国北部とオーストラリアは干ばつに見舞われ、小麦の主要産地である両地域の生産量が減少します。
結果として、トウモロコシ価格は下落し、小麦価格は上昇します。
米国でのトウモロコシの豊作は原油価格にも影響します。
毎年1億8000万トンのトウモロコシがバイオ燃料に加工され、ガソリンと混ぜて供給されています。
豊作により価格が下がったトウモロコシが大量にバイオ燃料へと転換されると、原油価格の下落要因になる可能性があります。
ラニーニャとその影響
一方で、エルニーニョとは逆の現象であるラニーニャが発生すると状況は一変します。
ラニーニャ(スペイン語で「女の子」)は貿易風が強まったときに起こります。
強い貿易風によって海底の冷たい海水が大量に上昇し、太平洋の水温が低下します。
夏にラニーニャが発生すると、米国西部は干ばつに見舞われ、オーストラリア、東南アジア、中国では豪雨や洪水が発生し、穀物価格が上昇します。
洪水は鉱山を水没させ、鉱物輸送にも支障をきたします。
冬にラニーニャが起これば、ヨーロッパや米国を含む北半球に厳しい寒波をもたらし、暖房需要を押し上げます。
エルニーニョからラニーニャへの転換期には、夏から冬まで冷暖房用の電力と天然ガスの需要が増加し続けます。
電力需要が急増すると、アルミニウム価格にも影響します。
アルミニウムは原料のアルミナよりも電気代の方がコスト比率が高く、製造コストの37%が電力料金です。
まとめると、穀物、電力、アルミニウム、天然ガス価格を刺激するのがラニーニャです。
そして現在、ラニーニャが徐々に始まりつつあります。
エルニーニョからラニーニャへの移行が起こる年は、夏が長引き、猛暑が激しくなる傾向があります。
ラニーニャが近づいているため、穀物、天然ガス、アルミニウムの価格動向に注目する必要があります。
参考までに、猛暑が厳しくなると、空調、電力、飲料関連の株が上昇する傾向があります。