トランプの相互関税に無効判決と復活 ─ トランプの今後の対応は?

トランプの関税

5月28日(日本時間5月29日)、米国際貿易裁判所は、トランプがIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に実施した包括関税および相互関税について、無効とする判決を下しました。

裁判所は、「米国憲法により、外国との貿易を規制する排他的権限は連邦議会にある。大統領による経済緊急措置の発動は議会の権限に優先しない。IEEPAは政府に無制限の権限を与える法律ではない」と判断しました。

つまり、IEEPAに基づく関税賦課は議会の権限であり、大統領の一存では行えないという内容です。

本判決は即時施行されるとされ、裁判所は10日間の猶予期間後に相互関税を撤廃するよう命じました。ただし、猶予期間中に支払われた関税も返金対象となるため、実質的には直ちに効力を持つとされていました。

 


速報:判決の執行を一時停止し、相互関税が「復活」

しかし、翌日である5月29日(日本時間 5月30日)、米連邦巡回区控訴裁判所は、トランプ政権の要請を受け入れ、米国際貿易裁判所の差し止め命令の執行を一時停止する決定を下しました。
これにより、相互関税は一時的に復活した形となります。

控訴裁が本格的な審理が行われるまでの間、トランプ政権による差し止め命令の停止要請を認めたとのことです。
また、原告であるニューヨーク州などには6月5日までに反論書面を提出するよう指示し、トランプ政権側にも6月9日までにそれに対する反論書面の提出を求めました。


貿易規制は議会で可能?実際には上院の壁が

昨日のもとの判決では、貿易規制の権限が議会にあると明示されましたが、現在のアメリカ議会は共和党が上下両院で過半数を占めており、「議会を通じて合法的に規制すればいいのでは?」と思うかもしれません。

しかし、問題は上院にあります。

相互関税のような措置を法制化するには、上院で最低51票が必要です。
共和党は現在53議席を保有しており、これだけ見れば問題ないように見えます。

しかし、上院には「フィリバスター」という制度が存在します。
フィリバスターとは、少数派が時間無制限の討論などを通じて法案の進行を妨げる制度であり、これを打ち切るには60票が必要です。
共和党単独ではこの壁を越えることができず、上院での成立は困難な状況でした。


通商拡大法232条

米国際貿易裁判所の関税無効の判決を控訴裁が一時停止決定したことにより、相互関税が再び発動可能な状態となりました。
しかし、もし判決が一時停止しなかったとしても、トランプが切り札を持ってなかったわけではありません。


昨日の関税無効判決はIEEPAに基づく包括関税と相互関税のみに適用されており、通商拡大法232条に基づく品目別関税には影響を及ぼしません。

既に鉄鋼・アルミニウム・自動車・自動車部品などに品目別関税が課されていますが、半導体・銅・木材・医薬品といった、まだ対象となっていない品目にも今後拡大される可能性があります。

この品目別関税は過去の政権でも複数回実施されており、裁判所が違憲と判断しにくいという背景があります。
トランプは今後も品目別関税を切り札として、相互関税と同等の効果を狙うとみられます。

トランプにはこの合法的な権限が切り札として残っているため、トランプにとって裁判所による関税のリスクは今後もほぼないと考えても良いと思います。