米国債金利が急上昇する理由(債券買い時が近づいている)


米国債金利が急上昇しています。
米国債金利が上昇している理由には様々な解釈が考えられますが、ドルが安全資産としての地位を失いつつあるという解釈が有力です。
グローバル投資家が米国債を買わず、EUや日本国債を買っているということです。
 
リスク(Risk)の別の表現が「ボラティリティ(変動性)」です。
米国債が急騰と急落を繰り返し、ボラティリティが大きくなり、市場は米国債にボラティリティに見合ったリスクプレミアム(上乗せ金利)を要求し始めました。
為替ヘッジコストとリスクプレミアムを考慮すると、米国債10年物を買うより、ドイツや日本の国債を購入する方が、安全かつ有利な状況です。
米国債を買っていた資金がEUや日本に流入し、米国債の価格が下がり、金利が上がり、ドルが弱くなっているのです。
 
これまでは、このような状況が発生するとFRB(米連邦準備制度理事会)が金利を下げて解決してきました。
しかし、今回はまだアメリカのインフレが完全に収束していないため、FRBがこうした伝統的な手段を講じるのは難しい状況です。
 
このような状況で、FRBは大手銀行のSLR(Supplementary Leverage Ratio)を緩和して国債需要を増加させ、BTFP(米国債担保ローン)を再開する方法を使うことができます。
 
SLR規制とは、2008年のリーマンショックの原因が米国の大手銀行の無分別な融資にあったことをきっかけに、今後そのようなことが起こらないよう、銀行が保有する資産に対して一定割合(3~5%)以上の自己資本を持つようにする規制です。
要するに、リスクの高い資産を保有するには、それだけ多くの自己資本が求められるということです。
 
米国では、米国債もSLRの計算対象に含まれるため、大手銀行が米国債を保有するには資本規制上の制約があります。

米国債をSLR規制から除外すれば、米国大手銀行は米国債を自由に購入できるようになり、新たな買い手になります。
そうすると米国債の価格は上昇し、国債金利は下がることになります。
 
FRBは、米国大手銀行のSLR算定時に米国債を除外する緊急措置を、コロナショックの時期である2020年4月から1年間一時的に運用した経験があります。 
トランプ大統領は米国債10年物金利を引き下げることに強い意志があるため、SLR規制の緩和を望んでいます。
 
ただし、SLR規制を緩和するには、FRBが動くきっかけが必要です。
最近、そのきっかけが発生しました。 
米国財務省の国債発行の問題です。
 
2025年5月8日、財務省で米国債30年物の入札が行われました。

今回注目すべきポイントは「間接入札者比率」です。
間接入札者とは、外国の中央銀行や外国人の需要です。
 
2024年下期の5回の30年物入札では、間接入札者比率は62.6~80.4%の間で、平均は68.7%でした。
今回の入札では、間接入札者比率が58.9%となり、2019年11月以来、最も低い比率となりました。
 
Primary Dealerもポイントです。
Primary Dealerとは、国債が売れ残った場合の最後の買い手です。
Primary Dealerに指定されているのは、JPモルガン、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、バンクオブアメリカ、シティバンクなどの米国の大手投資銀行やグローバル金融機関です。
今回の国債入札で未消化分をPrimary Dealerが引き受けた割合は13.9%で、前月より1.6%p上昇しました。
 
つまり、外国の中央銀行や外国の投資家から構成される「間接入札者」と、米国内の年金基金・保険会社・個人投資家などで構成される「直接入札者」の需要が減少したため、最終的に残債を引き受ける「Primary Dealer」の割合が高くなったことで、米国債の需要が減少したと解釈できます。
 
入札競争率も重要です。
今回の入札競争率は2.31対1でした。
先月の入札競争率2.43を下回り、直近10年間の入札競争率の平均的なレンジである2.4〜2.6からも外れました。
入札競争率が2.4を下回ると、入札需要が減少したと判断できます。
 
米国債券市場から海外投資家の資金流出が続いており、欧州債券やスイスフラン建て資産などに資金を移しています。
米国としては、外国人の需要が減少しているので、SLR規制を緩和して米国の大手銀行を新たな需要先とする必要があります。 
 
市場がSLRとともに注目しているのは、トランプの減税です。
イーロン・マスクのDOGEプロジェクトも財政支出削減が思うように進まない中で減税まで行われれば、財政赤字はさらに拡大することになります。
財政赤字が拡大すれば国債をもっと発行しなければならず、国債の供給が増えるので国債価格は下がり、国債金利は上がります。
 
外国人による米債券の買いが減少し需要が低下する中、財政赤字によって国債の供給まで増えれば、国債金利は大きく上昇することになります。
 
5月22日に米国債10年物の入札が予定されています。
注目すべきポイントは「間接入札者比率」と「入札競争率」の2つです。

次回の10年物国債入札の結果も不調となれば、米国債を買うタイミングになると考えています。
というのも、入札が連続して不調となれば、FRBがSLR規制の緩和に動き、金利上昇圧力を抑制しようとする展開が予想されるからです。