前回の記事では、「ステーブルコインとは何か」、「なぜ登場したのか」について説明し、ステーブルコインの基盤となる「イーサリアム」、そして実際にステーブルコインを発行している企業である「Tether」と「Circle」に注目する必要があると述べました。
その中で言及したステーブルコイン発行企業のCircle(CRCL)が、6月5日にアメリカ・ニューヨーク証券取引所に上場しました。
公開価格は31ドルでしたが、今は時間外取引で210ドルを超えるほど急上昇中です。
「GENIUS Act法」とは?
このような背景には、前回の記事でも触れた「GENIUS Act法」の存在があります。
この法律は表向きにはステーブルコインを規制する法案のように見えますが、実質的にはアメリカドルおよび米国債の地位を守るための戦略法案です。
GENIUS法案の主な内容は、以下の4点です。
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仮想通貨発行者の資格を定め、マネーロンダリング対策(AML)・顧客確認(KYC)・テロ資金供与防止(CFT)などを義務付け
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破綻時には仮想通貨保有者に優先弁済権を与えて消費者を保護し、発行規模に応じて連邦および州の許認可と監督を義務化
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証券・商品・預金・保険とは別に、「デジタル資産」として法的位置付けを明確化
- 1対1の準備金を義務化し、安全資産(米ドル・米国債など)で発行額の100%を裏付ける
ここで最も重要なのは、4番目の項目です。
過去のTerra・Luna事件のように、準備金のないアルゴリズム型ステーブルコインには脆弱性と限界があるため、準備金の義務化が盛り込まれました。
しかも、その準備金は米ドルや米国債となるため、ステーブルコインの発行量が増えれば増えるほど、その裏付けとして米国債を買う必要が生じます。
つまり、米国にとっては新たな国債需要が現れたことになります。
GENIUS Act法は現在、下院通過とトランプの署名のみを残している状況です。
トランプはすでに「この法案が早期に自分の机に届くことを期待している」と述べており、歓迎の姿勢を示しています。
また、米国財務長官のスコット・ベセントも、「ステーブルコインの立法化は、世界的にドルの使用を拡大させるきっかけとなり、2030年までにステーブルコイン市場は3兆7,000億ドルに成長するだろう」と歓迎のコメントを出しています。
世界に広がるドル経済圏
ステーブルコインの影響は、米国内にとどまりません。
以前の記事でも触れたように、自国通貨への信頼が低い国々や、海外送金の手続きが煩雑で手数料の高い国々では、ステーブルコインの利用が急速に広がると予想されます。
こうした国々は、自然とドル基軸の経済圏に組み込まれていき、結果としてドルの影響力はさらに拡大することになります。
つまり、米国はGENIUS Act法によって、米ドルと米国債の価値を維持する「直接的な効果」と、国外でドルの影響力を高める「間接的な効果」の両方を狙っています。
ただし、米国外の国々にとっては、為替管理が難しくなり、通貨危機が起きやすくなるという副作用にも注意が必要です。
次に注目すべきはイーサリアム?
ステーブルコインが注目され、その発行企業であるCRCLの株価が急上昇したように、個人的には次に注目すべきはステーブルコインの基盤、プラットフォームとなる「イーサリアム(Ethereum)」だと考えています。
そのタイミングの一つは、7月上旬になる可能性が高いです。
なぜなら、7月4日はアメリカの独立記念日だからです。
1776年7月4日、アメリカはイギリスからの独立を宣言し、それ以来この日は非常に重要な国家的記念日として祝われています。
政治家にとって、この日は自らの成果をアピールする絶好のタイミングでもあります。
特にトランプは、これまで関税政策で世界を混乱させたものの、目に見える成果がないとの批判を受けているため、7月4日の独立記念日までに何かしらの成果を打ち出す可能性が高いと見られます。
それがイランとの核交渉なのか、中国との関税合意なのか、米国内の減税法案なのか、
トリガーとなる要素はいくつかありますが、いずれにせよこの時期に発表されれば、市場は好意的に反応するはずです。
さらに、イーサリアムはステーキングETFが近く承認される可能性も高くなっており、ますます注目が集まっています。