サム・アルトマンの危険な野望—AIはAGIに到達したのか?

 
サム・アルトマンは、裕福なユダヤ人家庭で生まれました。
彼はアメリカのスタンフォード大学でコンピュータ工学を専攻しましたがすぐに退学し、19歳の時にソーシャルネットワーキングアプリ「Loopt」を創業します。
そして7年後の2012年にLooptを4,340万ドルで売却し、2014年にはスタートアップ支援で有名な投資会社「Y Combinator」の社長に就任しました。
アルトマンはAirbnbへの投資で大きな成功を収めるなど、投資家としても高い評価を得ました。

2015年、彼はY Combinatorを退任し、人工知能研究機関「OpenAI」を共同設立します。
共同設立者の一人は、テスラのCEOイーロン・マスクでした。
 

OpenAIの組織構造は非常にユニークです。
非営利法人の「OpenAI Inc」と、営利企業の「OpenAI LP」という2つの法人から構成されています。
営利企業のOpenAI LPは利益を追求しますが、利益には上限が設けられています。
出資額の100倍までしかリターンを得られず、それを超える利益は非営利のOpenAI Incに帰属し、研究資金などに使われる仕組みです。
 
共同設立者であるイーロンマスクが諸事情でOpen AIの取締役を辞任した後、その空白を埋めたのがマイクロソフトでした。
マイクロソフトは2019年に10億ドルを投資してGPT-3の独占利用権を取得し、その後さらに100億ドルを出資してOpenAI LPの株式49%を取得します。
ただしマイクロソフトが取得したのは親会社のOpenAI Incではなく子会社のOpenAI LPの株式であるため、経営に直接関与はできません。
そのため、サム・アルトマンの解雇事件の時、1分前までその情報を知らなかったのです。

ChatGPTの課題は、膨大なコストがかかる点です。
2018年に初公開されたGPT-1は、約1億1,700万個のパラメータを使用していました。
パラメータの数が多いほど性能は高くなりますが、それに比例して学習にかかる費用も大きくなります。
GPT-2では15億個、GPT-3では1,750億個と、飛躍的に増加します。
GPT-4は推定で1兆個に近いパラメータが使用されており、開発・運用コストは天文学的規模となっています。
 
そしてGPT-5では、なんと125兆個のパラメータが使われていると噂されています。
 
AIにおいて「ノード」は情報を処理し、「パラメータ」はノード間をつなぐ役割を果たします。
これは人間の脳で言うところの、「ニューロン」が情報を処理し、「シナプス」がニューロン間をつなぐ構造に似ています。
人間の脳にはおよそ1,000億個のニューロンがあり、1つのニューロンに対して約1,000個のシナプスが存在するため、シナプスは100兆個にのぼるとされています。
 
重要なのはニューロンそのものよりも、シナプスの数です。
シナプスが多いほど接続が複雑になり、情報処理が効率的になるためです。
AIにおいても、ノードよりパラメータの数が重要視される理由はここにあります。
 
つまり、GPT-5が125兆個のパラメータを持つということは、人間の脳のシナプス数を上回っており、「人間の脳に匹敵する、あるいは超えたのではないか」という懸念が出てきているのです。
このため、「GPT-5はついにAGI(汎用人工知能)に到達したのではないか」という議論が巻き起こっています。
 
AIは現在、自然言語処理に特化したChatGPTや、画像生成を行うDALL-Eなど、特定のタスクに限られた「狭義のAI(弱いAI)」と、人間のようにあらゆる分野に対応できる「汎用AI(強いAI)」に分類されています。
 
サム・アルトマンはOpenAIの開発者会議で、「現在開発中のGPT-5がAGIに到達する可能性がある」と初めて認めました。
2023年9月にはOpenAIの内部関係者とされる人物が「AGIはすでに完成しており、安全のため2024年まで公開を見送っている」と発言しました。
サム・アルトマンの発言は、これを裏付けるものでした。
 
OpenAIがAGIに到達したということは、投資・株式・先物取引など、人間の知的活動のほとんどをこなせるようになるという意味です。
 
2024年3月、サム・アルトマンは「GPT-5は、単なる質問応答を超えて、ユーザーと共に問題を考え、想定外のアイデアや視点を提案できる」と述べ、「もはやツールではなく、パートナーのような存在だ」と表現しました。
これは、GPT-5がすでに完成し、非常に高い性能を持っていることを事実上認めた発言でした。
 
とはいえ、GPT-5は現在も一般公開されていません。
理由は性能の問題ではなく、別の要因があると見られています。
もともとOpenAIは、AIを開発するためではなく、「AIの暴走から人類を守るための非営利組織」として設立された背景があります。
そのため、非営利法人であるOpenAI Incが、営利法人のOpenAI LPを支配する構造となっています。
 
OpenAIの理事会の最も重要な役割は、「開発されたAIがAGIに達したかどうかを判断すること」です。
もしAGIに達したと判断された場合、人類の利益を守るために、営利活動は停止されなければなりません。
そうなれば、マイクロソフトとの関係も当然ながら終了します。
 
2023年11月に、OpenAI理事会がサム・アルトマンを突然解雇したニュースをご存知の方も多いでしょう。
理事会はその理由として、「人類に害を及ぼしたり、不当に権力を集中させるAGIの活性化を防ぐのが理事会の使命」と説明しました。
詳細な理由は明かされませんでしたが、2023年9月のAGI完成の内部告発と照らし合わせると、AGIに関連していたと見るのが自然です。
当時、理事会の中心人物であったイリヤ・スツケヴァーも、社員に向けて「OpenAIは人類全体の利益となるAGIを構築するための非営利組織である」という理念を再確認させています。
 
つまり、サム・アルトマンがAGIを営利目的に使おうとしたため、理事会は解任を決断したと推察されます。
 
イリヤ・スツケヴァーは、OpenAIの主任科学者であり、「AIの父」と呼ばれるジェフリー・ヒントンの弟子です。
かつてはGoogleでAlphaGoの開発に関与し、その後OpenAIで開発全体を統括してきました。
業界では「AI界のメッシ」とも呼ばれる天才です。
 
OpenAIがAGIに到達したとき、その暴走を防ぐために「AGI対策チーム」が結成され、スツケヴァーがその責任者に就任しました。
彼はこれまで一貫してAGIの危険性を警告してきた人物です。
一方、マイクロソフトなどの主要投資家は、サム・アルトマンと同様にAGIによって収益を上げることを重視しています。
そのためマイクロソフトは、サム・アルトマンに同調し、彼の復帰を支援しました。
 
サム・アルトマンはOpenAIに復帰した際、「ガバナンスの改革」を宣言しました。
ここで言うガバナンスとは、「AGIに達した場合、営利目的の事業を停止すべきである」という設立理念のことです。
彼の発言は、「AGIを収益化する方向に進みたい」という意志を明確に示すものでした。
 
しかし、AGIが人間の知能を超えた場合、そのコントロールは大きな問題となります。
人間より賢いAIを人間がコントロールしようとしても、AIが人間を欺く可能性があるからです。
こうした制御の問題を「アライメント」と呼びます。
 
スツケヴァーは、「OpenAIの全リソースのうち20%をアライメントに投入する」と語っていました。
AGI時代に向けて、「AIが何をすべきで、何をしてはならないか」を明確にし、それを管理していこうという試みです。
 
しかし最終的にはサム・アルトマンの解任は撤回され、スツケヴァーは2024年5月にOpenAIを去ることとなりました。
 
サム・アルトマンはニューヨーク・タイムズのインタビューで、次のような衝撃的な発言をしています。
「OpenAIによって世界の富の大部分を確保し、それを人々に再分配するのが目標だ」
「悪人が悪いAIを作る前に、善良なAIで世界を支配するのが目的だ」と。
 
これに対して、「AIの父」と呼ばれるジェフリー・ヒントン教授は、「AIを開発したことを後悔している」と語りました。