米国経済の流動性3指標はどうなった?―リバースレポ・TGA・準備預金の現在地
以前、「米国株の下落局面から上昇への転換はいつ?」という問いを立て、米国流動性の3指標について整理しました。あれから時間が経ち、各指標の数字に変化が出てきましたので、今回はその後の動きを追いながら2026年4月時点の状況をアップデートします。
リバースレポ(RRP)とは何か
通常の「レポ取引」とは、銀行などの金融機関が米国の「連邦準備制度(Federal Reserve System)、FRB」に国債などを担保として差し入れ、短期の資金を借り入れる仕組みです。これに対して「リバースレポ(Reverse Repo / RRP)」はその逆で、FRBが金融機関からお金を借り入れる取引を指します。
FRBが資金不足に陥って借りているわけではありません。市場に資金が過剰に供給されている局面でインフレが起きないよう、余剰資金を一時的に吸い上げるツールとして活用されています。RRP残高が増えるということはFRBが流動性を積極的に吸収していることを意味し、残高が減るということは反対に市場への流動性供給が進んでいることを意味します。

この数年間でRRPが2.5兆ドルから2億ドルへと縮小した過程で、膨大な流動性が市場へ供給され、米国株の上昇を後押ししてきました。ただし現状では残高がほぼゼロに近いため、これ以上RRPを削って流動性を出せる余地は事実上ありません。注意すべきは「RRPが増加に転じるケース」です。RRP金利を引き上げれば資金を引き込めますが、市場が利下げを期待している現在の局面ではそれは難しい状況です。RRPはしばらく現状維持、つまり流動性の追加吸収も追加供給もない状態が続くと見てよいでしょう。
財務省一般会計(TGA)の役割
TGA(Treasury General Account)とは、米国財務省がFRBに保有する決済口座のことです。日本でいえば、国が日本銀行に持つ「国庫金」に相当するものです。税収や国債の発行によって政府にお金が入ってくるとTGAの残高は増え、政府支出が行われると残高は減少します。
重要なのは、TGA残高が減ると民間市場に資金が流れ込むという点です。政府が支出すると、そのお金は民間の事業者や家計に渡り、最終的に銀行預金として積み上がります。その預金の一部がFRBに準備預金として預け入れられる、という流れです。

TGAが減少しているということは、政府が積極的に支出を行い、その分の資金が民間へ流れ出していることを示しています。流動性という観点ではプラスの動きですが、4月は後述する納税シーズンの影響で一時的に残高が増加する局面もあります。
準備預金の動向とSVB危機の教訓
銀行がFRBに預けている「準備預金」も、市場流動性を測るうえで欠かせない指標です。コロナ禍の経済対策としてFRBが大規模な量的緩和(QE)を実施した結果、2021年末には準備預金が4.2兆ドルという過去最高水準に達しました。この潤沢な流動性を背景に、ナスダックやS&P500は相次いで最高値を更新しています。

その後、インフレ抑制のために量的引き締め(QT)が始まると、準備預金は急速に3兆ドル台まで縮小しました。2023年3月に起きたシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻は、この急激な流動性収縮が遠因のひとつとされています。FRBはQTのペースを緩め、2023年からは流動性の再供給に転じました。RRPの縮小が本格化したのもこの時期からです。
しかしその後も準備預金は2025年後半にかけて再び3兆ドルを割り込む水準まで低下しました。2023年のSVB危機が示したように、準備預金が急減すると金融システムの安定性に影響が出ます。FRBがこの水準を意識しないわけにはいかず、そこで導入されたのが次に説明するRMPです。
RMP(準備預金管理買入)の登場
FRBは2025年12月にQTを事実上停止し、「RMP(Reserve Management Purchases)」という新たな枠組みを開始しました。一言でいえば、FRBが毎月一定額の短期国債を買い入れることで、準備預金を適正水準に維持しようとする政策です。当初の買入額は月400億ドルに設定されていました。
さらにFRBはRMPとは別に、保有するMBS(住宅ローン担保証券)の満期償還金のうち月150億ドル程度を短期国債の再投資に充てています。RMPとMBS再投資を合わせると、FRBは水面下で着実に流動性を供給し続けている形です。その効果もあり、2.8兆ドル台まで低下していた準備預金は3.1兆ドルを再び超えてきました。
4月の納税シーズンと流動性の一時的な変動
毎年4月15日は、米国における個人所得税の申告・納付期限にあたります。前年(2025年)の所得に対する税金がこの時期に一括で国庫に入るため、年間税収の約15%、金額にして9,000億ドル前後が数週間の間に集中します。
税金が国庫(TGA)に流れ込む間は、民間から資金が一時的に引き上げられ、市場の流動性は縮小します。これは毎年4月に繰り返される季節的なイベントですが、4月14日時点ではほとんどの方が納税を済ませていると見られるため、この一時的な流動性収縮は峠を越えつつあります。
納税が一巡すれば、今度は政府が支出を再開し、TGAから資金が民間へと流れ出します。4月後半から5月にかけて、流動性環境は緩やかに改善する方向です。財務省は4月末にTGA残高が1兆500億ドル前後に達すると予想していますが、その後は支出超過に転じ残高が縮小していく見通しです。
5月のRMP縮小をどう読むか
4月13日、FRBは5月のRMP買入規模を月400億ドルから250億ドルへ縮小すると発表しました。一見すると流動性供給の縮小であり、ネガティブに映るかもしれませんが、背景を整理すると見え方が変わってきます。
まず、準備預金は既に3.1兆ドルを超えており、FRBが目標とする「十分な(Ample)」水準を維持しています。ペースをわざわざ速める必要がなくなってきた、という判断といえます。
次に、国債発行サイドの変化があります。財務省は2026年4〜6月期(2Q)における国債発行を1,090億ドル(月平均360億ドル)にとどめる計画を示しています。1Qの月平均1,910億ドルと比べると、国債の供給量は大幅に減少します。TGAに納税収入がたっぷり積み上がれば、あえて国債を大量発行して資金を調達する必要がなくなるからです。給与が口座に入って残高が十分あるときに、わざわざローンを組む必要はない、というのと同じ理屈です。
財務省の正式な四半期国債発行計画(QRA)は5月4日に発表される予定で、詳細はそこで確認することになります。ただし現状では、FRBが流動性を意図的に絞ろうとしているサインではなく、環境変化に合わせた実務的な調整と読むのが自然でしょう。
まとめ
流動性3指標の現状をまとめると、リバースレポはほぼ枯渇しており、上昇に転じない限り影響は中立です。TGAは4月に一時増加しますが、その後は政府支出によって縮小に転じ、市場への資金供給が続く見通しです。準備預金は3.1兆ドルを回復しており、RMPとMBS再投資によって下支えされています。
イラン情勢の動向、FRB議長の人事、インフレの再燃など、相場を動かし得る大きな変数はまだ残っています。ただ、流動性という観点に絞れば、底を打って回復局面に入りつつあることは確かです。「TGAの縮小 → 準備預金の増加 → 流動性改善」という流れが、足元でゆっくりと進行しています。
準備預金(長男)とTGA(次男)は正常化に向かっており、リバースレポ(三男)はもはや動く体力がありません。5月のRMP縮小は流動性引き締めではなく、国債発行の減少に連動した合理的な調整と見るべきです。基礎体力としての流動性環境は、改善の方向に向かいつつあります。