銅とはどんな金属か

銅はすべての金属のなかで電気伝導性が2番目に高い金属です。1番は銀ですが、銀は銅より約150倍高価なため、工業用途では圧倒的に銅が選ばれます。配電設備からスマートフォンの基板まで、「電気のあるところに銅あり」と言っても過言ではありません。
供給サイドの問題:採掘コストの上昇
銅は世界各地に埋蔵されていますが、採掘しやすい良質な鉱山はチリに集中しており、世界供給量の約27%をチリ1カ国が担っています。ところが、そのチリでも採掘難易度は年々高まっています。かつては地表近くで採れた銅も、今では地下700メートル以上まで掘り進まなければならないケースが増え、採掘コストは着実に上昇しています。供給を増やすことが難しくなっている中で、需要側には大きな変化が起きています。
需要を押し上げる3つの構造的要因
電気自動車(EV)の拡大
EV1台が使う銅の量は平均83kgで、内燃機関車(約21kg)の約4倍に上ります。車体の電気系統だけでなく、バッテリーの負極材を構成する銅箔にも銅が不可欠です。国内でもEV・PHVの普及が着実に進む中、銅の需要増は避けられない流れになっています。
AIデータセンターの急増
従来型のデータセンターを建設する際、1メガワットあたり約27トンの銅が必要とされてきました。電源ケーブルはもちろん、冷却用の熱交換器、配電バー、電気コネクタなど、あらゆる場所に銅が使われています。AIの普及によりデータセンター需要はさらに加速しており、IEA(国際エネルギー機関)は2030年のデータセンター電力需要が2024年(415TWh)比で2倍以上(945TWh)に拡大すると予測しています。
中国の戦略的資源確保
世界の銅消費量の約55%を占める中国は、銅市場と切り離せない存在です。国内の埋蔵量はわずか4%にとどまるため、海外から原鉱石を輸入・精錬し、世界の銅の約半分を供給するという独特の立場にあります。中国政府は銅を戦略備蓄鉱物に指定し、海外鉱山の権益確保と国内備蓄の積み増しを進めています。加えて、中国が国家戦略として推進するEV・太陽光・リチウム電池とAI投資はいずれも銅の大口需要先であり、中国経済の方向性そのものが銅の需給を引き締める構造になっています。
「光ファイバーで銅は減る」は本当か
データセンター内のケーブルが銅から光ファイバーに置き換わっているのでは、という指摘があります。確かにその傾向は一部に見られます。2020年頃までは10m以上の配線でのみ使われていた光ファイバーが、2021年以降のAIデータセンターでは3〜5m程度の区間にも広がってきました。
ただし、3m以内の超短距離ではDAC(Direct Attach Copper)と呼ばれる銅ケーブルが依然として主流です。光ファイバーは電気信号を光に変換するトランシーバーを必要としますが、1〜2mの配線にトランシーバーを使うのはコストと電力消費の観点から非効率です。1つのラック内の多数のGPUを光ケーブル(AOC)でつなごうとすると、トランシーバーが数千個必要になり、その発熱と電力消費は無視できない問題になります。NVIDIAの最新アーキテクチャ「Blackwell」でも銅の使用比率は高く、1ラックあたりの銅使用量は前世代より数十kg増えています。
さらに重要なのは、データ伝送用ケーブルは銅使用量全体のごく一部に過ぎないという点です。変電設備からデータセンターへの送電ケーブルには腕ほどの太さの銅が使われ、AIチップを冷やす冷却システムにも銅製の配管が大量に必要です。データ伝送用は髪の毛ほど細い銅線ですが、電力・冷却用の銅はまったく次元が異なります。
2030年に向けた長期見通し
複数の分析機関の試算では、2030年には最大2,150万トンの銅が不足する可能性があるとされています。LME(ロンドン金属取引所)のデータでも、2024年8月以降、銅の在庫は減少傾向にあります。需要は増え続けているのに、新規鉱山の開発には時間がかかり、供給が追いつかない構図です。
採掘コストの上昇、EV・AIデータセンター・再生可能エネルギーによる構造的な需要増、そして各国の戦略的な資源囲い込み——これらが重なることで、銅価格は長期的な上昇トレンドを描く可能性が高い状況です。「データセンターの銅が光ファイバーに代替される」という話は一面の事実ですが、それ以上に大きな銅需要の増大が同時進行しています。銅を単なるコモディティとして見るのではなく、エネルギー転換とデジタル化を支える戦略資源として捉えておく必要があります。