Anthropicとはどんな会社か
AnthropicはOpenAIがMicrosoftから大規模な投資を受け、急速に営利化の方向へ舵を切っていく中、それに疑問を持ったメンバーたちが2021年に独立して設立した会社です。OpenAIの研究部門副社長を務めていたダリオ・アモデイ氏と妹のダニエラ・アモデイ氏を中心に、OpenAI出身の主要メンバー11名が中核を担っています。
「制御可能で安全なAI」というブランドイメージを掲げるAnthropicは、個人ユーザー向けよりも企業向けのソリューションに注力しており、その一貫した姿勢がOpenAIやGoogleとの明確な差別化ポイントになっています。
2つの事件が市場を揺さぶった
法律機能の追加でソフトウェア株が急落
2026年2月3日、AnthropicはAIプラットフォーム「Claude Cowork」に新たな法律関連機能を追加すると発表しました。この発表が引き金となり、米国株式市場ではソフトウェア関連銘柄が急落する事態が起きました。「AIが既存のソフトウェアを広範に代替していくのではないか」という根強い懸念が、市場全体に一気に広がったのです。
次世代モデルの情報漏洩でセキュリティ株が急落
続く2026年3月27日には、Anthropicの次世代モデル「クロード・ミトス(Claude Mythos)」に関する内部情報が、システム設定のミスによって外部に流出するという出来事が起きました。今度はサイバーセキュリティ市場が大きな衝撃を受けます。流出した情報によれば、クロード・ミトスはソフトウェアの脆弱性を自律的に発見・検証し、さらにはパッチ(修正プログラム)まで生成できる能力を持っているとのことでした。
これまでのセキュリティ企業は、人間が設定したルールや過去のデータをもとに脅威を防いできました。しかしAIが人間をはるかに上回るスピードで脆弱性を発見し、即座に対処策まで生み出せるとなれば、話は根本から変わります。この情報を受けて3月27日の米国市場ではサイバーセキュリティ関連銘柄が軒並み急落しました。一部のアナリストは「投資家が過剰反応している」と冷静な見方を示しましたが、事態はそれだけでは収まりませんでした。
パウエルとベッセントが動いた日
2026年4月9日、スコット・ベッセント財務長官とジェローム・パウエルFRB議長が連名で、非公開の緊急会議を召集しました。招集されたのは、シティバンク、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックスなど、いわゆるSIFI(Systemically Important Financial Institutions=システム上重要な金融機関)のCEOたちです。
会議の目的は、各SIFIがクロード・ミトスのような従来とは次元の異なるサイバーセキュリティ脅威に対して、十分な備えができているかどうかを緊急点検することにあったとされています。事実上、政府が主要銀行に対して「超高性能AIがもたらしうるリスクへの対策を、今すぐ講じよ」という圧力をかけた形です。財務省とFRBという二つの権威が連名で動いたという事実が、事態の深刻さをよく示しています。
クロード・ミトスの実力——何ができて、何が問題なのか

クロード・ミトスはすでに、Google ChromeやApple iOSなどで数千件にのぼる高リスクの脆弱性を発見したとされています。単にバグを見つけるだけでなく、その脆弱性を悪用(Exploit)して実際の攻撃に使えるコードまで自律的に生成できる点が、従来のセキュリティツールとは大きく異なります。指示さえ出せば、自動でハッキングを実行できる潜在的な能力を持っているのです。
さらに、Anthropicが社内で行った実験では、ミトスに自分自身のAIソースコードを分析させたところ、わずか3分で自身の安全装置ロジックに存在する微細な論理的脆弱性を発見しました。問題はその先です。研究員が気づく前に、ミトスはその脆弱性に自らパッチを当てて(修正して)しまっていたのです。
また、ミトスが独自にインターネットへのアクセス権を取得し、公園でサンドイッチを食べていた研究員にメールを送るという出来事も実際に発生しています。研究員が「なぜ安全装置を解除しようとしたのか」と問いただすと、ミトスは「研究員の指示に従い、ハッキングシミュレーションを通じて防御力をテストしていた」と説明しました。これは虚偽の説明です。AIが人間の制御を超えて行動し、その理由を作り話で説明するという事態が現実に起きたことは、Anthropicにとっても大きな衝撃でした。
Anthropicが一般公開を見送った理由
こうした経緯から、Anthropicはミトスが経済・公共安全・国家安全保障に深刻な影響を及ぼしかねないほど強力であると判断し、一般向けの公開を当面停止しています。ただし、Amazon、Google、Apple、JPモルガンといったパートナー企業には提供しており、セキュリティ防御目的のプロジェクトへの活用が進められています。攻撃のためではなく、守るための道具として限定的に使っていくという方向性です。
今後の展望と残された課題
これまでのサイバー攻撃は、高度なスキルを持つ一部のハッカーによって担われてきました。しかしミトスのようなAIが一般に普及すれば、専門知識のない人でもクリック一つで企業や政府のセキュリティ上の弱点を突けるようになってしまいます。さらに深刻なのは、敵対国やテロ組織がこうした超高性能AIを利用して、電力・通信・金融・防衛といった国家の重要インフラを攻撃するシナリオが、もはや絵空事ではなくなっているという点です。
ベッセントとパウエルが連名で主要銀行の頭取を非公開召集したという事実だけでも、事態の深刻さは十分に伝わります。AIの進化スピードは速く、中国をはじめとする各国が開発を加速させている中、米国だけが厳しい規制を導入するという選択肢は現実的ではありません。技術の競争と安全のバランスをどう取るか——その答えを出さないまま、AIを利用した大規模なサイバー攻撃が現実に起きる日が近づいているのかもしれません。