3次電池:充電不要で50年動く電池が実在する ─ 核廃棄物を資源に変えるベータ電池の最前線

3次電池:充電不要で50年動く電池が実在する
─ 核廃棄物を資源に変えるベータ電池の最前線

1977年に打ち上げられたボイジャー探査機は、50年近く経った今もデータを送り続けています。その動力源は太陽電池でも充電式バッテリーでもなく、「第3次電池」と呼ばれる原子力電池です。この技術が今、宇宙から医療、そして一般産業へと静かに歩み始めています。

ボイジャーを50年動かし続ける電力の謎

1977年、アメリカのフロリダ州ケープカナベラル空軍基地からボイジャー1号・2号が打ち上げられました。それから約50年が経過した現在も、搭載された3つの科学機器は正常に作動を続けています。NASAは2030年代前半まで、少なくとも1つの科学機器を維持することを目標に運用を続けており、半世紀を超えても電力が途絶えていないことになります。

ではなぜ、太陽から遠く離れた宇宙空間でボイジャーは動き続けられるのでしょうか。天王星の軌道まで行くだけでも、太陽光の強度は地球上の400分の1以下にまで低下します。そのため太陽電池パネルは選択肢から外れます。ボイジャーが採用したのは、第3次電池と呼ばれる原子力電池でした。

第1次・第2次・第3次電池とは何か

電池は大きく3種類に分類されます。まず第1次電池は、一度放電したら終わりの使い捨て乾電池です。コンビニで手軽に買えるアルカリ電池がその代表例です。

次に第2次電池は、充電して繰り返し使えるバッテリーです。スマートフォンや電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン電池が代表格で、現代の電動化社会を支える中核技術となっています。

そして第3次電池は、外部から燃料やエネルギー源を供給することで、自律的に電気エネルギーを生産できる電池のことです。燃料電池(水素と酸素を反応させて発電するタイプ)もここに分類されますが、今回注目するのは放射性同位体を利用したタイプです。ボイジャーに搭載されたRTG(放射性同位元素熱電気転換器)がまさにそれにあたります。

補足

RTGとは Radioisotope Thermoelectric Generator の略で、放射性物質が崩壊する際に発生する熱を電気に変換する装置です。ボイジャーのほかにも、カッシーニ土星探査機やニュー・ホライズンズ冥王星探査機など、太陽光の届かない深宇宙探査機の多くに採用されています。

RTG(原子力電池)の実力と危険性

ボイジャーのRTGはプルトニウム238を燃料としています。プルトニウム238の半減期は約87年と比較的長く、長期間にわたって安定した出力が得られる点が宇宙探査に最適でした。ただし性能は徐々に低下するため、NASAは使用する機器を一つずつ停止させながら電力を節約してきました。

RTGが地上での民生利用に適さない最大の理由は、安全管理の難しさにあります。その危険性を示す事例として、旧ソ連時代の出来事があります。ソ連は無人灯台の電源としてRTGを実際に配備していましたが、ソ連崩壊後に管理体制が崩壊し、廃棄物として放置されたRTGが複数発生しました。ジョージア(当時グルジア)では、廃棄されたRTGを発見した地元住民が、熱源と勘違いして3時間ほど近くにとどまったことで被曝し、放射線性潰瘍と肺損傷による心不全で死亡するという事故が起きています。

このような事例があるため、RTGは人が立ち入らない宇宙空間を飛行する探査機への搭載は認められても、地上での一般利用には極めて慎重な判断が求められます。

次世代ベータ電池の登場:ニッケル63からの進化

RTGの代替として注目されているのがベータ電池(Beta-voltaic Battery)です。放射性同位体が崩壊する際に放出するベータ粒子(電子)を利用して発電するこの技術の核心は、「ベータ線を使う」という点にあります。ベータ線は人体への有害性が比較的低く、皮膚を透過しないため、適切に封じ込めれば安全性の高い電池を作ることが可能です。また、ベータ電池の寿命は使用する放射性同位体の半減期に比例します。

2016年、英国ブリストル大学の研究チームはニッケル63(半減期100年)を使用するベータ電池の理論を発表し、試作品の製作にも成功しました。ただし当時は出力が非常に低く、商用化には至りませんでした。

技術ポイント

ベータ電池において「半減期が長い=寿命が長い」一方で「半減期が長い=出力が低い」というトレードオフが存在します。用途に応じて適切な同位体を選ぶことが設計の鍵になります。

中国ベタボルト社のBV100:世界初の商用ベータ電池

ブリストル大学の研究成果を実製品に落とし込んだのが、中国のBetavolt(ベタボルト)社です。同社は2024年7月8日、「BV100」という小型ベータ電池を発表しました。ニッケル63を使用したこの製品は、3V電圧・100μW(マイクロワット)の出力を持ち、電池寿命は50年とされています。寿命が尽きると、ニッケル63が銅へと変化し、有害な廃棄物を残さない点も注目されています。

ただし、出力の観点ではまだ限定的です。BV100の出力は、一般的なコイン型リチウム電池(CR2032)の約6,000分の1に過ぎません。複数個を直列・並列接続することで出力を引き上げることはできますが、現時点では遠隔センサーや低消費電力のIoT機器への活用が現実的です。Betavolt社はBV100のパイロット量産を開始しており、現行比1万倍となる1W級の製品を開発中と発表しています。

製品・技術 同位体 半減期 出力 開発元
BV100 ニッケル63 100年 100μW Betavolt(中国)
ダイヤモンドバッテリー カーボン14 5,730年 研究段階 Arkenlight(英国)
NanoTritium™ P100 トリチウム(³H) 12.3年 商用出荷中 City Labs(米国)

ダイヤモンドバッテリー:半減期5,730年の「ほぼ永久電池」

ブリストル大学の研究チームはさらに一歩進み、ニッケル63を超える技術を開発しました。原子力発電所の減速材として使われた黒鉛からカーボン14(炭素14)を抽出し、それを電源に使うというアプローチです。

カーボン14が放出する放射線は「短距離放射線」と呼ばれ、大量に発生するものの、遠距離には届きません。この性質を利用し、カーボン14を適切な素材で封じ込めれば、外部への放射線漏洩をほぼゼロに抑えることができます。そこで研究チームが着目したのが、同じ「炭素」で構成され、かつ地球上で最も硬い物質であるダイヤモンドです。

人工(ラボグロウン)ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドと化学・物理・光学的に同等の性質を持ちながら、価格は天然品の10分の1程度です。実験室でゼロから「育てる」製造工程であるため、カーボン14を内包した形で合成することが可能です。このカーボン14をラボグロウンダイヤモンドで包んだ電池の寿命は、カーボン14の半減期である5,730年に相当します。理論上は「ほぼ半永久的な電源」と言っても過言ではありません。

さらに大きな意義があります。原子力発電所から排出される使用済み核燃料(核廃棄物)が、数千年単位で電力を供給できる資源へと生まれ変わるのです。廃棄物の処分コスト削減と資源化を両立するこの可能性に、英国原子力庁(UKAEA)は研究助成金を提供しています。

2020年にはブリストル大学のカーボン研究チームが分社(スピンオフ)し、民間企業Arkenlightを設立。1989年に運転を停止した英国のバークレー原子力発電所の放射性廃棄物を再利用した試作品の製作に成功し、2025年1月に最初のプロトタイプを公開しました。現在は複数のセルを積層することで出力を向上させる研究が進んでおり、英国政府の原子力研究助成を受けながら開発が続いています。

トリチウム電池:最も商用化に近い第3次電池

現時点で商用化に最も近いのが、米国のCity Labsが開発するトリチウム(³H)ベース電池です。トリチウムの半減期は12.3年と上述の同位体に比べて短いですが、半減期と出力の関係(半減期が短いほど出力が高い)から、より実用的な電力を得やすいという特徴があります。同社の試算では、保証寿命20年・40年後でも出力の50%が維持されるとしています。

主力技術であるNanoTritium™は、トリチウムの放射性崩壊で発生するベータ粒子を電気へ変換します。トリチウムのベータ線は紙1枚で遮蔽できるほど弱く、放射線リスクは極めて低い水準に抑えられています。また、-55℃から+150℃という幅広い温度域で安定動作する点も特長の一つです。

医療分野での応用が最も加速

トリチウム電池の活用が最も活発に進むのが医療分野です。現行のリチウム電池を搭載したペースメーカーは、おおよそ7年ごとに手術で交換する必要があります。米国国立衛生研究所(NIH)の助成プログラムと連携しながら、City Labsは20年以上の寿命を持つペースメーカー向けバッテリーの商用化を進めています。交換手術の負担を大幅に減らせる可能性があり、患者にとっての恩恵は計り知れません。

初期モデル「P100」はすでに一部の医療機器・IoTセンサー・宇宙・防衛用途向けに商業供給が始まっており、NASA NIACでも採用されました。NASAは月南極の日陰地域に設置する探査センサーの電源としてP100を活用するべく、検証テストを進めています。ライセンス面では、米国原子力規制委員会(NRC)の医療用基準が産業・軍事用と比べて相対的に緩やかであることが、医療分野での導入を後押ししています。現在はP100の上位モデルとなる「P200」の開発も進行中です。


まとめ:第3次電池が変える未来

現時点でのベータ電池は出力が限られており、センサーや医療機器など低消費電力の用途が主な活躍の場です。電気自動車の動力源としての実用化にはまだ大きなギャップがあります。

ただし技術の方向性は明確です。Betavoltが主張するように1W級の製品が実現すれば、スマートウォッチや補聴器、産業用センサーなど小型電子機器への応用領域は一気に広がります。さらに将来的に20年以上交換不要のEV向け電池が登場すれば、充電インフラへの依存という電気自動車最大の課題が根本から覆る可能性もあります。

核廃棄物の処理という長年の課題を「資源化」という発想で解決しようとするArkenlight型のアプローチは、エネルギー産業と廃棄物処理産業の両方に対するインパクトを持ちます。日本でも高レベル放射性廃棄物の最終処分問題が未解決のまま続いており、こうした技術が与える政策・経済的示唆は小さくありません。

第3次電池は静かに、しかし確実に前進しています。