燃油サーチャージが5倍に跳ね上がる理由 —ホルムズ海峡封鎖と航空燃料危機

 

燃油サーチャージが5倍に跳ね上がる理由
—ホルムズ海峡封鎖と航空燃料危機

航空券を購入するとき、運賃とは別に「燃油サーチャージ」という費用が課されることはよく知られています。しかし2026年春、このサーチャージが異例の急騰を見せています。3月時点では成田〜ニューヨーク往復(4人家族)でおよそ10万円程度だった負担額が、5月には50万円を超える水準になる見込みです。なぜこれほど急激に上昇しているのか。その背景にある構造的な問題を整理します。

燃油サーチャージとは何か

航空機の運航コストに占める燃料費の割合は、全体のおよそ30%に及びます。航空券は早ければ1年以上前から予約できますが、実際に燃料を消費するのは飛行機が飛ぶ瞬間です。予約時点と燃料消費時点のあいだには大きな時間的ズレがあり、その間に燃料価格が大きく変動するリスクを航空会社が単独で引き受けるのは現実的ではありません。

この問題を解決するために設けられたのが燃油サーチャージです。チケットの「予約日」ではなく「発券日」の燃料価格水準を基準に、運賃とは別に追加徴収される仕組みになっています。予約を早くしていても、実際に発券(購入確定)するタイミングが遅れれば、そのときの燃料価格に基づく料率が適用されます。

計算の基準——MOPSとは

燃油サーチャージの計算に使われる指標が、シンガポール航空燃料価格指標のMOPS(Mean of Platts Singapore)です。S&Pグローバルがシンガポール現物市場の取引を毎日集計・発表するこの数値は、JALやANAをはじめ日本の主要航空会社が航空燃料を調達する際の基準価格にもなっています。

サーチャージの料率は33段階に設定されており、前々月16日から前月15日までの平均MOPSを使って当月分の水準が決まります。1ガロンあたり150セント以下であればサーチャージは発生せず、150セントを超えると第1段階が適用されます。そこから10セント上がるごとに1段階ずつ引き上げられ、上限となる第33段階は470セントに相当します。

ホルムズ海峡封鎖が引き起こした連鎖

今回の急騰の発端は、ホルムズ海峡の封鎖です。中東産原油やカタルのLNG(液化天然ガス)など、世界のエネルギー供給に欠かせない資源の輸送ルートが一度に遮断されることになりました。

原油についてはある程度の代替手段が存在しました。サウジアラビアが建設した東西横断パイプライン(East-West Pipeline)を経由すれば、ホルムズ海峡を通らず紅海側へ迂回輸出できます。3月末にはこのパイプラインがフル稼働し、1日700万バレルの輸出が可能な状態になりました。ホルムズ封鎖前に中東から輸出されていた原油は1日約2,000万バレルとされており、サウジの迂回輸出によって不足分の3分の1以上がカバーされる形となっています。

一方、カタル・イラク・クウェートなどの産油国はエネルギー輸出が依然として困難な状況が続いており、供給不足は完全には解消されていません。

原油と航空燃料、明暗を分けた理由

問題の核心は航空燃料(Jet-A1)です。サウジの東西横断パイプラインは原油専用として設計されており、精製済みの航空燃料を通すことができません。カタルや周辺産油国からの供給が止まったままの状況で、日本を含む各国の石油化学コンビナートも稼働率の引き下げを余儀なくされており、航空燃料の供給量は大幅に減少しています。

さらに、軍事衝突が激化したことで軍用機の燃料消費が激増していることも見落とせません。民間の航空燃料(Jet-A1)と軍用の航空燃料(JP-8)は、主に結氷防止剤の添加の有無程度の違いしかなく、事実上同じ燃料を取り合う構造になっています。

大型旅客機のボーイング777は1時間あたり約1,700ガロンを消費します。これに対し、小型戦闘機のF-15は同じく約1,580ガロンを消費し、アフターバーナーを使用した場合は10,000ガロン以上に急増します。燃費を度外視した設計の軍用機が大量に稼働することで、航空燃料の需給バランスが一気に崩れています。

需要側からの追い打ち

供給が減少する一方、需要側でも想定外の押し上げ要因が加わっています。イランとイスラエル周辺の空域が閉鎖されたことで、多くの国際線が大幅な迂回ルートを強いられており、飛行距離が延びた分だけ1便あたりの燃料消費量も増加しています。

供給の縮小と需要の急増が同時に起きることで、航空燃料の価格上昇幅は通常の原油をはるかに上回っています。このアンバランスが、MOPSの急騰という形で直接サーチャージに反映されています。

3月・4月・5月の推移

3月:第6段階

3月分のサーチャージは、1〜2月中旬の平均MOPSが1ガロンあたり204セントで計算されました。150セントを超えて54セント分の上昇にあたるため、第6段階が適用されています。

4月:第18段階(前月比3倍)

4月分は2月16日〜3月15日の平均値で計算され、ホルムズ封鎖の影響が約半月分反映された形になっています。この期間の平均MOPSが1ガロンあたり326セントに達したため、第18段階が適用されます。3月比でおよそ3倍の水準への急騰です。

5月:第33段階(上限)がほぼ確実

5月分の計算対象期間は3月16日〜4月15日ですが、4月初旬時点での平均がすでに1ガロンあたり510セントを超えており、上限となる第33段階(470セント以上)の適用はほぼ確実な情勢です。

適用月 段階 基準期間の平均MOPS 成田〜NY(片道・概算)
3月 第6段階 204セント/ガロン 約1万円台
4月 第18段階 326セント/ガロン 約3万円台
5月 第33段階(上限) 510セント/ガロン超 約6万円台

※金額はMOPS連動の韓国航空サーチャージ体系を参考に円換算した概算値です。JAL・ANAの実際の料率とは異なる場合があります。

4人家族が成田〜ニューヨークを往復する場合、3月時点では運賃とは別におよそ10万円程度のサーチャージが発生していましたが、5月には50万円を超える水準になる可能性があります。渡航先や路線によって差はありますが、この急騰の傾向は日本の航空会社を含む国際線全体に共通しています。

今からできること

燃油サーチャージは「搭乗日」ではなく「発券日」を基準に決まります。5〜7月に海外旅行を予定している場合、第18段階が適用される4月中に発券を済ませておくことで、コストを抑えることができます。5月以降に発券すると第33段階が適用される可能性が高く、大幅なコスト増につながります。

8月以降については、戦況の推移によって最適な発券タイミングが変わる可能性があるため、状況を見極めながら判断することをおすすめします。

また、同じ路線であれば、マイレージ発券にサーチャージを課さないユナイテッド航空など、燃油サーチャージを徴収しない外国航空会社を選ぶという選択肢もあります。乗り継ぎや所要時間との兼ね合いはありますが、コスト差が大きい時期には検討に値します。

なお、サーチャージが上昇しても航空会社が利益を得ているわけではありません。JALやANAの場合も、航空燃料が1バレルあたり1ドル上昇するごとに年間数十億円規模のコスト増が生じるとされています。今回の急騰は、航空会社にとっても深刻な経営上のリスクを意味しています。燃油サーチャージはあくまで燃料費の変動分を旅客に転嫁する仕組みであり、利益の源泉ではないという点は押さえておく必要があります。