米国株の下落局面から上昇への転換はいつ?
流動性3兄弟(RRP・準備預金・TGA)の現状
米国株を動かす「流動性3兄弟」とは
米国株式市場の動向を語るうえで、「流動性」は外せないテーマです。特に注目すべきは、市場の資金量に直接影響を与える3つの指標――逆レポ(RRP)、準備預金、そしてTGA(財務省一般会計)です。この3つを「流動性3兄弟」と呼ぶことにします。
過去を振り返ると、ナスダックは2025年10月29日を、S&P500は2026年1月28日をそれぞれ直近の高値として下落に転じています。この下落は特定の地政学的イベントが引き金になったというより、流動性3兄弟がそろって市場から資金を吸い上げる方向に動いていたことが根底にあります。現在も3兄弟の状況は厳しく、これがリスク資産の上値を重くしている構図です。
逆レポ(RRP)の仕組みと現状
逆レポ(Reverse Repurchase Agreement、RRP)とは、FRBが金融機関からお金を借り入れる操作です。通常は金融機関がFRBから資金を借りる「レポ」が基本ですが、その逆の操作であることから「逆レポ」と呼ばれます。FRBが資金不足で借りているわけではなく、市場に資金が溢れすぎてインフレが進む局面で、余剰資金を一時的に吸収するために使われる手段です。
逆レポ残高が増えているときは、FRBが市場の流動性を積極的に回収している状態を意味します。反対に残高が減っているときは、吸収していた資金が市場に戻り、流動性が供給されていると解釈できます。2023年には残高が2兆5,000億ドルを超えており、この豊富な流動性が株式市場や暗号資産市場を押し上げる原動力となっていました。
ところが現在、その残高はほぼ底をついています。2025年9月時点では480億ドルまで縮小し、2026年3月末時点では9億9,200万ドル――実質的にゼロに近い水準です。いわば「燃料警告ランプが点灯してからもしばらく走り続けた車が、エンジンが止まる寸前」の状態と言えます。残高を回復させるにはRRP金利を引き上げて資金を呼び込む必要がありますが、市場が利下げを期待している現在の局面では現実的な選択肢ではありません。
逆レポ残高はセントルイス連銀のFREDで毎日公表されています(ティッカー:RRPONTSYD)。残高の変化をウォッチすることで、市場への流動性の流れをリアルタイムで把握できます。
準備預金の動向とRMPの役割
準備預金とは、顧客の預金を受け入れた銀行が、その一部をFRBの口座に預け入れているお金のことです。2008年の金融危機以降、FRBは準備預金に対して利息(IORB:準備預金残高への付利)を支払うようになり、銀行にとっては無リスクで運用できる短期資産としての性格を持っています。
コロナ禍の大規模な量的緩和(QE)によって2021年末には準備預金が4兆2,000億ドルに膨らみ、この時期にナスダックとS&P500はいずれも史上最高値を更新しました。その後、インフレ抑制を目的とした量的引き締め(QT)が始まると準備預金は急速に減少し、2023年3月にはその速度が危険水域に達してシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻という事態を招きました。この教訓からFRBはQTの加速リスクを認識し、国債等を担保に資金を供給するBTFP(銀行期間融資プログラム)を導入して流動性の補充を図りました。
現在、準備預金は2兆9,900億ドルとかろうじて3兆ドルを維持しています。これはFRBが2025年12月にQTを停止し、RMP(Reserve Management Purchases:準備預金管理買入)を開始したことが大きく貢献しています。RMPとは2026年1月から実施されている措置で、FRBが毎月400億ドルの短期国債を買い入れるものです。財務省が月あたり約900億ドルの短期国債を発行するなかで、FRBがその約半分を引き受けている計算になります。パウエル議長はこれを「QEではない」と強調していますが、実質的に市場への資金供給という機能を果たしています。
TGA(財務省一般会計)の動き
TGA(Treasury General Account)は米国財務省がFRBに持つ当座預金口座で、政府の「財布」にあたります。TGA残高が増えるときは、その分だけ民間から政府へ資金が移動していることを意味します。国債を発行してTGAを積み増す場合も、投資家から資金を吸い上げることになるため、民間部門の流動性は目減りします。
2025年7月に3,000億ドルだったTGAは、わずか2か月で8,000億ドルまで急増しました。この急増には国債発行だけでなく、9月の法人税納付も寄与しています。企業が法人税を納めるとTGAは膨らみますが、その分だけ銀行の預金が減り、準備預金も収縮するため、約1,000億ドル分は法人税効果とみられています。2026年3月25日時点でTGAは8,740億ドルに達しており、財務省の四半期計画によると4月末には1兆250億ドルまで増加する見通しです。流動性3兄弟の次男であるTGAは、4月も引き続き市場から資金を吸収する方向で動くことになります。
流動性の「端境期」――4月15日が分岐点
日本の農村では古くから、秋に収穫した米が底をつき、春に植えた麦がまだ実らない5〜6月頃を「端境期」と呼んでいました。備蓄が尽きるこの時期、農家は普段口にしないものまで食べてしのぐほどの厳しい生活を強いられたと伝えられています。現在の米国株式市場の流動性は、まさにこの「端境期」の真っただ中にあります。
その終わりの目安として注目されているのが4月15日です。この日はアメリカの個人所得税の申告・納付期限で、1年間に徴収される連邦所得税の約15%、金額にして9,000億ドル規模が一気に納付されます。これによりTGAはさらに膨らみますが、4月15日以降は税収の流入が一段落し、TGAが縮小方向に転じます。TGAが減少し始めると、その資金が銀行システムの準備預金として還流し、市場への流動性供給が再開される流れとなります。
RRPは底をつき、TGAは4月にかけてさらに積み上がる。この「流動性の冬」を抜けるタイミングが4月15日です。逆に言えば、それまでは3兄弟がそろって逆風を吹かせている構図が続きます。
今後の見通しと注意点
端境期を乗り越えたからといって、すぐに相場が急回復するとは限りません。まず5月にはパウエル議長が退任し、後任のウォーシュ新議長が就任するプロセスが控えており、FRBの政策スタンスをめぐる思惑が市場を揺らす可能性があります。また、中東情勢の緊張がインフレに波及した場合、その影響が4月CPI(消費者物価指数)に反映されれば新たな変数となりえます。インフレが高止まりしているかぎり、FRBがQTを終了してQEに転換するための大義名分は生まれにくく、「何らかの市場ショックが起きて初めてFRBが動ける」という見方も市場の一部では根強くあります。
もう一つ、より長い目線で注目しておきたいのが米国の中間選挙です。11月に予定されており、選挙3か月前から選挙日にかけて株価と選挙結果が連動しやすいというアノマリーが指摘されています。政権としても「今すぐ株価を押し上げる」より、「タイミングを計りながら徐々に環境を整える」動きをとる可能性を念頭に置いておくべきでしょう。
株価は一つや二つの要因だけで説明できるものではありませんが、流動性は基本的な確認事項として継続的にウォッチする価値があります。RRP、準備預金、TGAの3指標を合わせて見ることで、「市場の体力」を総合的に判断する材料が得られます。
まとめ
逆レポ(RRP)残高は実質ゼロに到達。市場に流動性を供給してきたエンジンの一つが止まった状態です。
準備預金はFRBのRMP(月400億ドルの短期国債買入)によってかろうじて3兆ドルを維持しています。
TGAは4月末にかけて1兆ドル超えが見込まれており、4月15日の個人所得税納付がピークとなります。4月15日以降、TGAの縮小とともに流動性が市場に戻る流れが期待されます。
ただし、パウエル退任・新議長就任、4月CPI、中東情勢など複数のリスク要因が残っており、端境期通過後も慎重な姿勢は崩さないことが賢明です。