ホルムズ海峡に続き紅海も封鎖リスクへ—日本の原油輸入に迫る二重の脅威

ホルムズ海峡に続き紅海も封鎖リスクへ—日本の原油輸入に迫る二重の脅威

2026年3月28日、イエメンのフーシ派がイスラエルへの弾道ミサイル攻撃を再開し、正式に参戦を宣言しました。すでにホルムズ海峡がイランによって封鎖されているなか、紅海の要衝バブ・エル・マンデブ海峡にも封鎖リスクが生じています。今回は、フーシ派がどういう組織でどれほどの戦力を持つのか、そして日本の原油輸入への影響について整理します。

イエメン内戦の現在地

2025年末まで、イエメンでは3つの勢力が入り乱れる内戦が続いていました。イランが支援するフーシ派(シーア派)、サウジアラビアが支援する政府軍(スンニ派)、そしてUAEが支援する南部過渡委員会(STC)です。ところが2026年1月、サウジ支援の政府軍がSTCの解散に成功したことで、内戦の構図は一変します。千年近くにわたって敵対関係にあるスンニ派対シーア派の二極対立へと集約されたのです。

イランがフーシ派を支援する理由は、イエメンをシーア派国家にしたいからです。一方のサウジはスンニ派の盟主として、隣国にシーア派政権が誕生することを阻止したい。この構図は中東全体の宗派対立と連動しており、単純な内戦を超えた地政学的な意味合いを持っています。

フーシ派とはどんな組織か

「フーシ派」という名称は反政府指導者の名前に由来しています。2004年、創設者のフセイン・アル・フーシが政府軍に殺害されると、弟のアブドゥルマリク・アル・フーシが組織を引き継ぎ現在に至ります。西側諸国から正式な政府としては認められていないため「反政府勢力」と呼ばれていますが、実態は首都サナアを制圧し実効支配を続ける事実上の政権です。2015年にフーシ派が首都を占拠し、政府軍を南部の不毛地帯へ追い払ったことがその出発点でした。

ザイド派——宗教的義務としての武装蜂起

フーシ派がこれほど強固な戦闘集団になった背景には、宗教的な要因があります。シーア派は大きく3つの宗派に分かれており、イランが主体の十二イマーム派が全信者の過半数を占めます。ところがイエメンのシーア派は異なる流派、いわゆるザイド派(五イマーム派)に属しています。

十二イマーム派が歴代12人のイマームすべてを信仰するのに対し、ザイド派は5番目のイマームであるザイド・イブン・アリーを正統な継承者として信仰します。その理由は、彼が「不当な権力に対して最も勇気をもって戦った指導者」だからです。この信仰に基づき、ザイド派では不当な統治者への武装蜂起は宗教的義務と見なされています。勝ち負けを度外視して最後まで戦い続けるフーシ派の姿勢は、この教義に深く根ざしています。

フーシ派の軍事力

装備の充実度だけを見れば、フーシ派は政府軍に劣ります。しかし戦闘力の実態は対照的です。サウジから高性能兵器の供与を受けている政府軍の兵士がわずかな不利でも投降を選ぶのに対し、フーシ派の兵士は文字通り最後まで戦い続けるケースが大半です。

戦力の面でも無視できない規模に達しています。戦闘員は基本的に20万人規模とされてきましたが、2023年以降は10代の青少年まで徴募し始め、現在は最大36万人に達するとも言われています。武器は首都制圧時に政府軍の武器庫から大量に接収したことで基盤を築き、さらにイランから弾道ミサイルなどの供与を受けて実戦力を増強し続けています。

参戦宣言と紅海封鎖リスク

2026年2月28日のイラン-イスラエル戦争勃発後、約1か月にわたって沈黙を保っていたフーシ派が、2026年3月28日にイスラエルへの弾道ミサイル攻撃を再開しました。フーシ派は「イランなどへの攻撃が停止されるまで作戦を継続する」と声明を出しています。フーシ派の制圧地域からイスラエルまでは約2,000kmと、イランよりも遠距離のため、長距離弾道ミサイルやドローンが主な攻撃手段となります。

ただし、フーシ派にとってより主要な攻撃対象は紅海を航行する船舶です。フーシ派が押さえるバブ・エル・マンデブ海峡は、世界の海上原油輸送量の約10%が通過する海上交通の要衝です。この海峡で短距離ミサイルを使えば民間船舶の通過を容易に妨害でき、過去の実績がそれを証明しています。2024年にフーシ派が紅海通過船舶への攻撃を行った際、紅海を航行する船舶数は約70%減少しました。2021年のエバー・ギブン号座礁によるスエズ運河の6日間封鎖が世界物流に大きな混乱をもたらしたことは記憶に新しいですが、軍事力を背景にした意図的な妨害はさらに持続的な脅威となり得ます。

ホルムズ海峡と紅海の「二重封鎖」シナリオ

今回の情勢が過去と大きく異なる点は、ホルムズ海峡と紅海が同時に封鎖されるリスクが初めて現実的なシナリオとして浮上していることです。ホルムズ海峡はすでにイランによって封鎖されており、サウジアラビアは自国領のパイプラインを通じて一部の原油を紅海側へ迂回させることでこれに対応してきました。しかしフーシ派が紅海も封鎖するとなれば、この迂回ルートすら機能しなくなります。

二つの海峡が同時に通行不能になる事態は、歴史上いまだかつて起きていません。それが今、初めて現実のシナリオとして検討されなければならない局面を迎えています。

日本の原油輸入への影響

日本は原油輸入の約90%を中東に依存しており、そのほとんどはホルムズ海峡を経由して運ばれます。さらに一部の輸送ルートはスエズ運河・紅海を通るルートも利用されています。ホルムズ海峡がすでに封鎖されているなかで、紅海のバブ・エル・マンデブ海峡まで機能不全に陥れば、代替ルートの選択肢はアフリカ南端の喜望峰を回る大回りのルートのみとなります。輸送コストと所要時間が大幅に増加し、エネルギーコストの上昇は避けられません。

サウジがパイプラインを通じて紅海に迂回させていた原油もフーシ派の封鎖で止まる可能性があります。日本のエネルギー安全保障において、「ホルムズ海峡と紅海の二重封鎖」は従来のリスク想定に存在しなかったシナリオです。今後は、この前例のない状況を含めたエネルギー調達戦略の見直しが必要になってくるかもしれません。


まとめ

フーシ派は宗教的信念に支えられた強固な戦闘集団で、バブ・エル・マンデブ海峡を封鎖できる軍事力を保有しています。ホルムズ海峡(イラン)と紅海(フーシ派)が同時封鎖された場合、日本の原油輸入への影響は甚大です。このシナリオはもはや机上の空論ではなく、現実として想定しなければならない段階に入っています。