三菱商事・三井物産・住友商事など日本の5大総合商社は、いつの間にか世界の資源・食料・エネルギーを押さえる巨大プレーヤーへと変貌していました。バフェットがその価値に気づいたのはなぜか、ホルムズ海峡が封鎖されても日本が慌てない理由とは何か——データとともに読み解きます。
貿易仲介から資源・エネルギーへの大転換
2000年代初頭、日本の総合商社は事業の軸足を大きく転換しました。従来の貿易仲介から、資源・エネルギー分野へと主力をシフトさせたのです。
権益シェア
世界鉄鉱石生産量ランク
コバルト・天然ガスへの投資
三菱商事はチリの銅やオーストラリアのLNGをはじめとする資源確保を着実に進め、世界の石炭鉱山の25%に相当する権益を握るまでになっています。三井物産が出資する企業群からは世界第4位規模の鉄鉱石が生産されており、住友商事もインドネシアのニッケル鉱山や希土類、シェールオイル、コバルト・天然ガスへの投資を積み上げてきました。
次の勝負は「食料」——世界人口増加という長期トレンド
資源の次に各商社が力を入れているのが、食料事業です。丸紅は米国の穀物大手ガビロンを約2,700億円で買収し、三井物産は2011年にブラジルの農業会社マルチグレインを傘下に収めました。住友商事も2014年以降、オーストラリアの穀物会社など食料関連企業への買収・出資を継続的に拡大しています。
- 気候変動と人口増加により、多くの国で食料自給率が低下し続けている
- 世界人口は2022年11月に80億人を突破し、2070年には103億人でピークを迎えると予測
- 世界の合計特殊出生率はまだ2.3人で、増加ラインの2.1を上回っている
- アフリカは出生率5.2を維持しており、現在10億人の人口が将来30億人規模に膨らむ見通し
少子化が深刻な日本では人口減少が身近な問題として映りがちですが、世界に目を向けると話は全く異なります。1950年代に4.7人だった世界の出生率は現在2.3人まで低下したものの、依然として増加ラインを維持しており、特にアフリカの爆発的な人口増加が今後の食料需要を押し上げる最大の要因となります。日本国内の少子化という近視眼的な視点だけで食料問題を語ってはいけない、ということです。
バリューチェーン全体を握る食料戦略
こうした世界情勢を踏まえ、伊藤忠商事・三菱商事・三井物産・住友商事などは、穀物のバリューチェーン全体への投資を加速させています。
生産から消費の最終段階まで一気通貫で関与することで、商社の強みを最大限に発揮できるうえ、凶作などのリスクも分散できるという考え方です。まさに総合商社ならではのアプローチと言えます。
バフェットが見抜いた「本当の価値」
こうした動きを誰よりも早く見抜いた人物が、ウォーレン・バフェットです。2020年8月31日、バフェットは日本の5大総合商社の株式をそれぞれ約5%取得したと公表しました。バフェットにとって初の本格的な日本投資です。
買収を進めた時期はコロナ禍で世界経済が落ち込み、原材料価格も下落していた局面で、5大商社の業績も株価もまさに底をついていました。しかしその後、原材料価格の急騰とともに各商社の評価額は上昇の一途をたどり、バフェットは改めて「投資の神様」の真骨頂を見せつけました。
富を守る真の道だと私はずっと言い続けてきました。」 — ウォーレン・バフェット
バフェットが商社株に投資したのは、これらを単なる貿易会社として見ていたからではないでしょう。資源・エネルギー・食料を押さえる企業群として評価したからこそ、というのが自然な解釈です。今まさに、富を守ることが求められる時代が来ていると見ているのではないでしょうか。米国では手元キャッシュの比率を高めながら、日本の総合商社では株価上昇と円安による為替差益の両面を取りに行く——景気変動リスクへの備えとして、実に理にかなった動きです。
ホルムズ海峡封鎖リスクと日本の備え
ホルムズ海峡が封鎖された場合、日本のエネルギー事情はどうなるのでしょうか。日本は2025年時点で1日あたり236万バレルの原油を輸入しており、その95.9%がUAE・サウジアラビア・クウェートを中心とした中東産です。石油の99.7%を輸入に頼り、その大半を中東から調達しているとなれば、ホルムズ海峡の封鎖は直撃ダメージのように思えます。
ところが実際には、政府も企業もそれほど焦った様子を見せていません。その理由が「自主開発率」の向上です。
- 2010年エネルギー基本計画で2030年までに40%を目標として設定
- 2020年に40.6%を達成し、目標を前倒しでクリア
- 現在の目標は2030年に50%、2040年に60%へと引き上げ
- 2022年はロシア問題で33.4%に低下したが、2024年には42.1%まで回復
自主開発率とは、日本企業が権益を持つ海外油田・ガス田の産出量を国内消費量で割った比率のことです。数字が示すとおり、日本は着実に海外エネルギー権益の確保を進めており、ホルムズ依存からの脱却を静かに果たしつつあります。
日本企業が持つ海外権益の実力
🛢 原油権益
日本企業の海外油田権益を規模別に見ると、首位はINPEX(日本政府が筆頭株主の準国策エネルギー企業)で57.3万バレル/日分の権益を確保しています。注目したいのは上位7社のうち2・3・6・7位を総合商社が占めている点で、4社合計では海外油田の権益が1日54.5万バレルに達します。
天然ガス(LNG)権益
日本の年間LNG消費量は2023年時点で約6,489万トンで98%を海外から輸入していますが、日本企業は相応の権益を確保しています。
米国キャメロンなど
中心に展開
UAE・カタルなど
重要なのが産出地の分散です。権益の大部分が豪州・マレーシア・米国・ロシアに集中しており、一部にUAEやカタルが含まれるものの、ホルムズ海峡封鎖による直接的な影響は限定的と言えます。
加えて、日本の石油備蓄法により、政府は民間企業が保有する海外油田・ガス田からのエネルギーを国際市価で買い取ることができる仕組みが整っています。企業側も時価での売却なので損失はなく、価格が高騰した際は政府が補助金を活用して民間への放出価格を調整する仕組みです。
原油・天然ガス価格が上昇局面に入りつつある今、総合商社が長年かけて積み上げてきた資源権益は、いよいよ本格的な収益を生み出す局面に差し掛かっています。
株価の予測は難しいですが、ホルムズ海峡の封鎖によってエネルギー価格(原油・LNG)が高騰すれば、日本の総合商社の収益は大きく膨らみそうです。長期にわたって積み上げてきた資源・食料・エネルギーの権益が、今まさにその真価を問われる局面を迎えています。