7月2日、トランプの主要な政策公約を盛り込んだ「大きく美しい法案(One Big, Beautiful Bill, OBBB)」が米上院を通過しました。
定数100の米上院では、共和党が53議席、民主党(無所属含む)が47議席を占めています。
今回のOBBBに対する採決では、賛成と反対が50対50の同数となりました。
このような場合、米上院では副大統領が決定権を持ちます。
今回は副大統領であるJ.D.Vanceが賛成票を投じたことで、法案が可決されました。
この法案は、7月2日〜3日の間に下院でも採決が予定されています。
下院では共和党が220議席、民主党が212議席と、共和党が8議席多く、上院よりも可決は容易と見られています。
ただし、上院通過のために共和党が一部内容を民主党寄りに譲歩した部分があり、これを強硬派の共和党議員がどう受け止めるかが課題となっています。
OBBBはトランプの公約実現のポイント
このOBBBには、トランプの重要公約の実現に向けた政策がすべて反映されています。
中でも共和党の支持が最も強い分野は安全保障関連です。
軍艦建造能力の強化のため造船業への支援、宇宙ミサイル防衛網「ゴールデンドーム」の構築などに、総額1,570億ドルが割り当てられました。
また、トランプの代表的な公約である不法移民の追放や国境の壁建設などにも、1,500億ドルが割り当てられており、法案が最終的に通過すれば、公約の実現が可能となります。
支出増と減税の矛盾 ― 財政緊縮策に対する懸念
支出が増える一方で、所得税の減税なども含まれていることから、追加的な財政引き締め策の必要性が議論されています。
特に、共和党内でも、アメリカの低所得層向け公的医療保険「メディケイド」の給付縮小が懸念されています。
月80時間以上の就労がメディケイドの受給条件となる点には反対はありませんが、食品などを無料で購入できる「フードスタンプ」に対する州政府の負担割合が50%から75%に引き上げられる点が問題視されています。
連邦政府の負担が減り、州政府の負担が増すため、これまで恩恵を受けていた共和党の一部州が反発しています。
金額ベースで見ると、法案内で最も影響が大きいのは、2017年のトランプ政権時代に導入された4兆5,000億ドル規模の減税政策の延長です。
個人所得税率の引き下げ、法人税の最高税率の引き下げ、子どもに対する税額控除の延長などにより、世帯あたり平均で年間2,119ドルの減税効果が見込まれています。
この減税延長に加え、新たな減税措置も盛り込まれています。
飲食店などで従業員が受け取るチップ、年収16万ドル未満の労働者の残業手当が非課税となり、自動車ローンの利息も税額控除の対象となります。
イーロン・マスクらが強く反対している、再生可能エネルギーへの支援縮小も法案に含まれています。
太陽光・風力発電プロジェクトは、インフレ抑制法(IRA)に基づく投資税額控除の恩恵を失うことになります。
具体的には、2025年に着工するプロジェクトは100%の税額控除が適用されますが、2026年には60%、2027年には20%、2028年以降はゼロになります。
また2025年9月30日をもって、電気自動車購入に対する7,500ドルの補助金も廃止される予定です。
当初、OBBBの財政赤字増加見込みは2兆4,000億ドルとされていましたが、上院通過の過程で予算規模がさらに拡大し、最終的に3兆3,000億ドルに達するとの予測が出ています。
今後の展開:国債発行増加とエネルギー政策の方向転換
法案は下院も通過する見込みであることから、減税と追加支出によりアメリカの財政赤字は急拡大し、国債の発行増加は避けられない状況です。
また、OBBBは石油や天然ガスなどの伝統的エネルギーの復活を示唆しており、それに伴うインフラ整備や輸出向けの設備開発が加速すると予想されます。
逆に、風力発電などの再生可能エネルギーは、トランプ政権下で冷遇されることになるでしょう。