米国の金融市場で非常に象徴的な出来事が起きました。
それは、仮想通貨が住宅ローン審査という最も保守的な金融領域において、「資産」として正式に認められたことです。
米国住宅金融庁(FHFA:Federal Housing Finance Agency)は、傘下の2大住宅金融機関であるファニーメイ(Fannie Mae)とフレディマック(Freddie Mac)に対し、「住宅ローン審査の際、仮想通貨も預金や株式などと同様に資産として評価せよ」という指針を出しました。
ファニーメイとフレディマックは、米国全体の住宅ローン担保証券(MBS:Mortgage-Backed Securities)市場の約75%を担っています。
これらの機関は、民間銀行が提供した住宅ローン債権を買い取り、それを再証券化して投資家に販売する役割を果たしています。
つまり、米国の住宅金融システムの根幹を支える存在です。
これまでのローン審査では、LTV(Loan to Value、住宅価格に対する借入額の割合)や信用スコアに加え、申請者の保有資産も重要な審査項目でした。
不動産、預金、株式、債券など、従来型の資産をもとに返済能力を評価してきたわけです。
今回の新方針により、仮想通貨もこの「資産」カテゴリーに加わることになりました。
これは、これまで投機的資産とみなされていた仮想通貨が、制度上の金融資産として徐々に認識されつつあることを示しています。
とはいえ、どんな仮想通貨でも無条件に資産と認められるわけではありません。
FHFAは「米国の規制下にある取引所に預けられている仮想通貨のみ」を条件としています。
現在、米国で規制を受けて運営されている主要な仮想通貨取引所は、コインベース(Coinbase)とロビンフッド(Robinhood)の2社のみです。
したがって、「自分のウォレットに仮想通貨が入っている」と主張するだけでは不十分で、米国当局が信頼できると見なすプラットフォーム上に保管された資産でなければ、評価の対象とはなりません。
仮想通貨を資産として評価するには、2つの技術的な課題をクリアする必要があります。
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仮想通貨の保有量をリアルタイムで正確に把握すること
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書類の偽造や情報の改ざんを防ぐ仕組みを構築すること
この要件を満たすために、ファニーメイは近年、AIベースの詐欺検知システムや、リアルタイムで仮想通貨資産を検証できるテクノロジーを導入し始めています。
この領域で注目されている企業が、あのパランティア(Palantir)です。
パランティアはもともと軍事・情報機関向けのビッグデータ分析プラットフォームで知られていましたが、近年では金融・ヘルスケア・物流など民間分野にも積極的に進出しています。
今回も、仮想通貨のリアルタイム資産確認や不正検出を支援するテクノロジー「Foundry for Crypto」を提供することで、ファニーメイとの協業に乗り出したようです。
単なるデータ管理ではなく、AIによる異常検出や不正の予防、データの即時検証までを統合的に提供できる点で、仮想通貨の制度化における中核的な役割を果たしています。
今回のFHFAの指針は、単なる内部通達を超え、仮想通貨が制度的金融システムに本格的に統合されつつあることを象徴する出来事と言えます。
すべての仮想通貨が認められたわけではなく、保管先や規制の有無などに制限はありますが、それでも「投機的で不安定な存在」というこれまでの評価から、確実に脱皮しつつあります。
今後、仮想通貨がどこまで伝統的な金融システムと融合していくのか、そしてその過程でどのような技術企業がカギを握るのか、引き続き注目する必要があります。