バフェットが長期保有する石油会社「オキシデンタル・ペトロリアム」

ウォーレン・バフェットが継続的に買い増し、長期保有している銘柄の中に「オキシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)」という企業があります。
オキシデンタルは1920年に設立され、テキサス州ヒューストンに本社を置く、米国の石油・ガス・化学企業です。

オキシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)の株価

 

正直なところ、バフェットが投資してきた銘柄と比べると、オキシデンタルのパフォーマンスは良いとは言えない状況です。
それでもなぜ、バフェットがこの銘柄に長期投資を続けているのか、その背景を整理してみたいと思います。


バフェットとオキシデンタル

バフェットがオキシデンタルに初めて投資したのは2019年です。
当時、多くの人々がその判断に疑問を持ちました。
というのも、石油産業は衰退産業と見なされていたからです。


バフェットがオキシデンタル株を取得した2019年、オキシデンタルはシェール企業Anadarkoを380億ドルで買収しました。
このAnadarko買収資金を、バフェットが株式購入という形でオキシデンタルに提供したのです。

2023年12月、オキシデンタルはシェール企業CrownRockを120億ドルで買収しました。

この際、バフェットはオキシデンタルの1,050万株を5億9,000万ドルで追加投資し、持ち株比率を拡大しました。
バフェットは、シェール企業を次々に買収するオキシデンタルの戦略にポジティブな見方を示したと言えます。

バフェットの投資原則は「市場で過小評価されている企業に投資し、長期保有すること」です。

彼は、シェール企業が市場で過小評価されていると考え、それらを買収するオキシデンタルの企業価値を高く評価したようです。

もちろん、シェール企業を買収しているのはオキシデンタルだけではありません。

エクソンモービル(ExxonMobil)やシェブロン(Chevron)といった既存の大手石油企業も、多額の資金を投じてシェール企業を買収しています。
こうした大手石油企業がシェール企業を買収する理由は、設備や人材などの運営効率を高めて、石油の生産コストを引き下げるシナジー効果が期待できるためです。


オキシデンタルの優位性はどこにあるのか?

ここまでの話を聞くと、エクソンモービルやシェブロンのような大手石油企業もシェール企業に投資している中で、オキシデンタルの優位性はどこにあるのかという疑問が湧くかもしれません。

エクソンモービルは利益の70%をイラクやロシアなどの海外市場で上げています。
シェブロンもまた、利益の約60%が海外からのものです。

一方で、オキシデンタルの海外利益比率は10%台に過ぎません。
オキシデンタルは利益の大半をアメリカ国内で上げており、その多くが米国内のシェールオイルから得られるものです。
つまり、従来の石油ではなく、アメリカ国内で生産されるシェールオイルを高く評価するなら、オキシデンタルへの投資も一つの選択肢としてあり得るということです。

石油産業が衰退産業と見なされる理由は、再生可能エネルギーの急速な普及によります。

風力や太陽光などのクリーンエネルギーの拡大によって、石油の使用量が停滞、もしくは減少するという見通しが立てられているからです。

しかし、石油の用途はエネルギーだけではありません。
石油は合成繊維や樹脂といった石油化学製品の原材料としても広く使われています。
これらの製品需要は人口増加に比例して成長しており、世界人口は今後も増え続ける見込みです。
 


二酸化炭素を直接回収するDAC技術で先行するオキシデンタル

オキシデンタルが他の石油大手と差別化されるもう一つの要因は、「DAC(Direct Air Capture)」と呼ばれる大気中から二酸化炭素を直接回収する技術で業界をリードしていることです。

オキシデンタル初のDAC工場は2025年中頃に完成し、稼働を開始する予定です。
この工場では、年間50万トンの二酸化炭素を大気中から除去する計画です。
このプロジェクトは、ウォーレン・バフェットに加え、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)からも5億5,000万ドルの出資を受けています。

ブラックロックはビットコインETFを牽引し、仮想通貨を伝統的な金融市場に取り込んだ張本人でもあります。
このように莫大な資金を動かすプレイヤーが注目し投資する銘柄には、私たちも関心を持ち、分析する価値があります。


オキシデンタルは日本の総合商社と連携可能?

もしかすると、ウォーレン・バフェットはオキシデンタルと日本の総合商社との連携まで視野に入れている可能性があります。

日本の五大総合商社は数年前から二酸化炭素関連事業への投資を本格化しています。

  • 三菱商事は、回収した二酸化炭素をコンクリート製造に活用する「CarbonCure」プロジェクトを展開しています。
    コンクリートの主原料であるセメントは、石灰石を焼成する工程で大量の二酸化炭素を排出しますが、この二酸化炭素をセメントに注入する技術が「CarbonCure」です。
    これにより、二酸化炭素を再利用しながらコンクリートの強度を高める効果が得られます。
    三菱商事はすでに商用製品を開発し、鉄筋コンクリートへの適用を広げています。

  • 伊藤忠商事は、二酸化炭素の輸送およびCCU(Carbon Capture and Utilization)に注力しています。
    CCUとは、回収した二酸化炭素を液化して活用したり、他の有用物質に転換する技術です。
    伊藤忠商事は、インドネシアで二酸化炭素からバイオ燃料を生産するプロジェクトを始めました。

  • 三井物産は、CCS(Carbon Capture and Storage)に注目しています。
    これは二酸化炭素を回収した後、地下800〜1,000メートルの油田や帯水層に貯留する技術です。
    三井物産はイギリスのCCS企業「SG」に投資し、2026年から2030年にかけて670万トンの二酸化炭素を油田やガス田に注入する計画です。

  • 丸紅は、オーストラリアの石炭火力発電所で発生する二酸化炭素を、100km離れた貯蔵施設に移送し、地下2kmに永久貯留するCCSプロジェクトを2022年6月に始め、2025年から本格的な貯留を開始する予定です。

  • 三菱商事・三井物産・住友商事が共同で関わるインドネシアの「Tangguh LNG」プロジェクトは、CCUとCCSを組み合わせたCCUS事業です。
    生産中のガス田にCCUS技術を適用し、2,500万トンの二酸化炭素を回収して再び地中に戻すことで排出を抑える計画です。

このように、日本の総合商社は近年、資源・食料・CCUS分野に投資を集中しています。

バフェットは日本の総合商社を単なる貿易会社ではなく、資源・食料・CCUSの企業として捉えて投資した可能性が高いと考えられます。
そこに、カーボン回収技術で先行するオキシデンタルとのシナジー効果を期待しているかもしれません。


核融合エネルギーとDAC

さらにオキシデンタルは、DACの稼働にあたり核融合エネルギーの導入を進めています。
オキシデンタルの子会社OLCVは、核融合エネルギー開発企業TAE Technologiesと協力し、第6世代の核融合炉を開発しています。

TAE Technologiesは1998年から核融合の研究を続けており、2015年以降だけでも15万回以上の実験を行ってきた専門企業です。
TAE Technologiesはオキシデンタルに加え、米エネルギー省・Google・UCLAなどとも連携しており、600人超の研究者と1,500件以上の特許を保有しています。

オキシデンタルがTAE Technologiesと提携する理由は、DACの運用に膨大な電力が必要だからです。
世界資源研究所(WRI)は、DACで10億トンの二酸化炭素を除去するには、世界の電力消費量の10%が必要だと試算しています。



現在のオキシデンタルの株価だけを見れば、バフェットがなぜこの企業に投資したのか理解し難いのが事実です。
しかし、バフェットが投資を続けていることから察するに、オキシデンタルを単なる石油企業ではなく、シェールオイルとカーボン回収企業として、その将来性に賭けて投資していると推測します。