イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性についての話が出ています。
ホルムズ海峡とは何か、そしてそれがどのような影響を及ぼすのかを解説したいと思います。
ホルムズ海峡とは?
ホルムズ海峡という名前は、イランのホルムズ島に由来しています。
ホルムズ海峡で最も狭いところの幅は約54kmもあり、想像よりは狭くありません。
この広い海峡はイランとオマーンがほぼ半分ずつ領有しており、地図上では一見、封鎖するのが難しそうにも見えます。
しかし、問題は海峡の水深にあります。
ホルムズ海峡は氷河期には陸地だったため、全体的に水深が浅いところです。
大型タンカーが通行できるほどの深さがあるルートは、幅がわずか約9kmしかありません。
通行できる幅は狭いため、ホルムズ海峡を通過する船舶は、TSS(Traffic Separation Scheme、分離通航方式)という衝突防止システムを利用しています。
このTSSでは、9kmの航路を3分割し、3kmが出口ルート、3kmが入口ルート、残りの3kmが中央分離帯として使われています。
さらに重要なのは、この大型タンカーが航行できる深海ルートが、イランの領海内にあるという点です。
つまり、イランが自国の領海であるホルムズ海峡を封鎖することは違法ではありません。
国連には「無害通航権(Innocent Passage)」という協定があり、単に領海を通過するだけであれば、特別な事前承認を得る必要はありません。
しかし、通過する船舶が「無害」であるかどうかを確認・判断する権利は、領海を管轄する国にあります。
そのため、イランがホルムズ海峡を通過するタンカーを検査するのは合法であり、狭い海峡を1隻ずつ通行する状況で、イランが1隻でも止めて検査を行えば、実質的にホルムズ海峡は封鎖されてしまうのです。
原油・天然ガスの通過路としてのホルムズ海峡
ホルムズ海峡は、サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、カタール、イランという6カ国が生産する原油のうち、約85%が通過する重要な海上ルートです。
さらに、カタールの天然ガスはほぼ100%ホルムズ海峡を通って輸出されています。
この海峡を通過する原油のおよそ半分と、天然ガスのほとんどが、日本・韓国・中国といった東アジア3カ国に向けて輸出されています。
ちなみに、東アジア3カ国の原油輸入におけるホルムズ海峡依存度は、日本 73%、韓国 72%、中国 43%となっています。
このように、ホルムズ海峡が封鎖された場合、最も大きな影響を受けるのは東アジア3カ国です。
イラン封鎖の可能性とその影響は?
一部の専門家は、イランがホルムズ海峡を封鎖するのは現実的ではないと考えています。
その理由として、中国がイランを支持しているため、イランが中国に打撃を与えるような行動を取る可能性は低いという見方があります。
一方、アメリカの立場は異なります。
かつてのアメリカは原油の輸入国だったため、中国と同様にホルムズ海峡が封鎖される状況の時はそれを回避する努力をしていたはずです。
しかし、現在のアメリカは原油の輸出国へと変わっており、ホルムズ海峡の封鎖に対してあまり興味がありません。
むしろ、ホルムズ海峡が封鎖されて石油供給に支障が出れば、アメリカ産のシェールオイルを高値で輸出できる状況になるため、アメリカにとっては「都合がいい」とさえ考えられます。
トランプとしては、エネルギー価格の上昇によるインフレはFRB議長パウエルの責任に転嫁すればいいので、シェール油田をフル稼働させて莫大な輸出収入を得てそれを自分の業績にするシナリオさえ描ける状況です。
現在、イスラエルはイランの製油施設を攻撃しており、イランもイスラエルの製油所が集中する地域を攻撃しています。
つまり、戦争がこれ以上拡大しないとしても、すでに一定の石油供給の混乱が発生していると考えられます。