以前の記事で、「もし原子力分野への投資が遅れてしまったなら、「ウラン」に注目するのも良い選択肢となる可能性が高い」とコメントしました。
今回はウランについて内容をまとめ、最後に関連銘柄を紹介したいと思います。
いつものように、まずは問題の背景から解説します。
アフリカの紛争地域:クーデターベルト(Coup Belt)
世界の紛争地域の一つに、アフリカの「クーデターベルト」と呼ばれる地域があります。
クーデターベルトとは、クーデターが頻発するギニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャド、スーダンの6か国を指します。
このクーデターベルトの北側は人が住めない砂漠地帯であり、東側のサヘル地域は草原ではあるものの深刻な水不足のため農業には不向きです。
農業が成り立たないため、食料の自給自足が難しく、限られた資源を巡って争奪戦が続いています。
クーデターベルトおよびその北側地域は食料問題を抱えており、またアラブ系と多様なアフリカ民族が複雑に入り混じって暮らしています。
腐敗した無能な政府と、ISISなどのイスラム過激派勢力の勢力争いが続く地域です。
そのため、住民たちは腐敗した政府よりも、イスラム過激派と戦える軍部を支持する傾向があります。
フランスの影響とロシアとの関係
この地域は、かつてのフランス植民地と多く重なっています。
フランスはこれらの国々に独立を認めましたが、フランス軍を駐留させるなど、完全には手を引いていません。
また、植民地時代の記憶から反仏感情が強く、冷戦時代からソ連が影響力を強めていたため、ロシアには比較的好意的です。
ニジェールのクーデターとフランスとの対立
問題は、この地域に多くの資源があることです。
2023年9月、クーデターベルトに属するニジェールでクーデターが発生しました。
ニジェールはかつてフランスの植民地であり、フランスは軍を撤退させたものの、軍事協定が残されており、約2,000人のフランス兵が駐留していました。
クーデター軍はクーデター直後にフランス語の使用を禁止し、ニジェールとフランスの軍事協定破棄を宣言しました。
フランスによる軍事介入は起こらず、フランスはニジェール大使館を閉鎖し、軍隊を撤退させました。
その後、2023年12月にはEUとの軍事協定も破棄し、ロシアとの軍事協力を再開することとなります。
ニジェール軍部は、クーデターに成功した後、フランスへのウラン輸出を禁止します。
ウランは希少な金属?
ウラン自体は、決して希少な金属ではありません。
地殻には2.8ppm程度存在し、金や銀よりは豊富で、コバルトや鉛よりは若干少ない程度です。
しかし、重要なのは「埋蔵量」よりも「含有率が高い地域」です。
ウランの含有率が1000ppm(0.1%)を超える場所が見つかれば、鉱山としての開発が検討されます。
現在、ウランの含有率が最も高いのはカザフスタンで、次いでカナダ、オーストラリアなどが続きます。
中でも、世界最高品質の鉱山はカナダにあり、20万ppmを超えるウラン含有率が確認されています。
ウランの加工手順は次の通りです。
まずウランを採掘し、不純物を取り除いた後、U₃O₈を分離して、濃度約75%の「イエローケーキ」にします。
このイエローケーキをガス化し、遠心分離機にかけて濃縮し、ペレット状にしてジルコニウム棒に封入すれば、ウラン燃料棒の完成です。
ニジェール産ウランの戦略的重要性
ニジェールのウラン含有率は非常に高いわけではなく、生産シェアも世界の約4%で8位程度です。
しかし、EU全体のウラン輸入量のうち約20%がニジェール産であり、特にフランスにとっては最大の供給国です。
フランスは電力の75%を原子力発電に依存しており、ニジェール産ウランの供給が止まると深刻な問題が発生します。
2021年時点では、ヨーロッパとフランスへのウラン供給国はニジェール、カザフスタン、ロシアの順でした。
EUはロシア・ウクライナ戦争以降、様々な制裁を行ってきましたが、ウランは制裁対象外でした。
その理由は、ロシア産ウランが他国産に比べて価格が75%も安く、さまざまなメリットがあったためです。
現在もフランスはロシア産ウランを輸入していますが、ロシアからの供給が止まってもニジェールから供給してもらえるから問題ない、と思っていました。
しかし、ニジェールでクーデターが起こり、ロシアとニジェールから同時に輸入できなくなると、フランスの主要ウラン輸入元はカザフスタンのみとなってしまいます。
そのため、フランスはニジェール軍部の背後にロシアがあると疑っています。
フランスは2050年までに14基の原発を追加で建設する計画を立てています。
既に原発依存度の高いフランスがさらなる建設に踏み出す中、ロシアがニジェールに介入し、フランスの計画を脅かしているため、フランスはロシアに対して強い不信感を抱いています。
ニジェール産ウランの問題は、フランスやEUだけでなく、アメリカも深く関わっています。
アメリカも原子力発電の比率を高めており、電力の20%を原子力で賄っています。
原発の稼働増加に伴い、ロシア産ウランの輸入も増加しました。
かつてアメリカのウラン輸入のうちロシア産は19%でしたが、ウクライナ戦争以降も減るどころか、32%にまで増加しています。
2023年には、アメリカは2022年の2倍以上にあたる416トンのロシア産ウランを購入しました。
しかし、2023年3月、アメリカ上院のエネルギー委員会は、ロシア産ウランの輸入禁止法案を提出しました。
この法案は、ロシア産ウランの輸入を制限し、フランスやイギリスからの輸入を増やすという内容です。
フランスがニジェール産ウランを加工している構造上、フランスへの供給が止まればアメリカにも影響があります。
アメリカにもウラン鉱山は多数存在しますが、ロシア産ウランを輸入する理由はコスパが低いからです。
ロシア産は1ポンドあたり43ドル程度ですが、アメリカ国内では最低でも120ドル以上が必要です。
ロシア産ウランの禁止と代替策
2023年3月に提出されたアメリカのロシア産ウラン輸入禁止法は、2024年5月に上下院を通過しました。
法案の詳細は、2028年からロシア産ウランの輸入を禁止する内容であり、即時の禁止は困難であることを示しています。
ヨーロッパのウラン濃縮企業は、ウレンコ(Urenco)とオラノ(Orano)の2社があります。
ウレンコはイギリス・オランダ・ドイツのコンソーシアムで、オラノはフランスの企業です。
2024年5月7日、イギリス政府はウレンコに対し、約1億9600万ポンドの施設拡張支援金を発表しました。
オラノも濃縮施設の拡張を進めており、2028年1月には濃縮能力が30%以上増加する見込みです。
アメリカは、この2社の生産能力が拡大すれば、供給元をロシアからヨーロッパに切り替える計画です。
SMRに必要なHALEU(高純度低濃縮ウラン)
通常の原発用ウランはフランスやイギリスで代替可能ですが、SMR(小型モジュール原子炉)に使用されるHALEU(高純度低濃縮ウラン)は別問題です。
現在、ヨーロッパには商業的にHALEUを生産できる企業が存在していません。
ビル・ゲイツのテラパワーは、Centrus Energy社と共にHALEUの試験生産を進めており、米エネルギー省の支援を受けています。
フランスのオラノもHALEUの生産に向けた規制承認手続きを開始しましたが、早くても2030年の商業化が見込まれています。
AI時代のSMR稼働には、HALEUの安定供給が不可欠です。
米国の対ロシア制裁とウラン産業の復活
アメリカ上院では、ロシア産の原油やウランを購入する国に500%の関税を課す「ロシア制裁法案」を準備中です。
これはトランプ個人の動きではなく、共和党と民主党が一致団結して国家規模で進めている法案です。
2023年まではアメリカはロシア産濃縮ウランの最大輸入国でしたが、2024年からは輸入を段階的に削減しています。
2024年1月〜10月のロシア産濃縮ウラン輸入国ランキングは、中国が1位、韓国が2位、アメリカが3位となりました。
参考までに、アメリカ国内のウラン生産企業ランキングは、1位がEnergy Fuels、2位がenEnergy、3位がURG、4位がUEC、5位がCamecoです。
しかし、生産能力ではなく「ライセンス処理能力(年間最大処理能力)」で見ると、拡張可能性が最も高いのは「UEC」です。
UECが注目されているのは、採掘方式に「ISR(In-Situ Recovery)」を採用している点です。
ISRはウランを直接掘るのではなく、ウランが含まれる地下水に酸素を加えた溶液を注入し、溶け出したウランを回収する方式です。
この方法は環境汚染が比較的少なく、従来の方法に比べて生産コストも半分程度に抑えられるとされています。
低コストでウランを採掘できれば、ウラン含有率が低くて採算が取れなかった旧鉱山でも再び採掘が可能になります。
トランプは、1980年代から放置されていた数百のウラン鉱山に採掘許可を出す行政命令を進めています。
アメリカがISR方式でウランを採掘するとしても、ロシア産ウランよりは割高になる可能性がありますが、ロシアにへの資源の依存から脱却できるという点で、大きなメリットがあります。
これを見ても、どんな問題が起きても解決策を見つけ出すのがアメリカの真の強みですね。
アメリカのウラン生産の鍵はISRにあるため、ウラン関連企業に投資するなら、UECが有望だと考えられます。