急速に成長している市場があるため、今回はその動向を整理してみたいと思います。
2024年8月、エヌビディアの決算発表後に行われたジェンスン・フアンCEOのQ&Aセッションでは、インフラに関する発言が特に注目されました。
データセンターでは、チップが演算処理を行う際に熱を発生させるため、それを冷却するためのソリューションが不可欠です。
特に、演算処理量が膨大なAIデータセンターにおいては、一般的なデータセンターと比べて冷却に6倍以上の投資が必要だと言われています。
エヌビディアの最新GPU「Blackwell(ブラックウェル)」を搭載したサーバーは、通常のサーバーよりも13倍以上の電力密度を持ち、それに伴い4倍以上の熱を発生させます。
このような課題に対して、ジェンスン・フアンは「液体冷却(Liquid Cooling、リキッドクーリング)」を解決策として挙げました。
空冷から液冷へ:次世代のAI冷却技術
これまでAIアクセラレータはエアコンの風を使う空冷式が主流でした。
しかしジェンスン・フアンCEOは、次世代ブラックウェルは液体冷却ベースで設計し、熱管理効率を大幅に改善すると同時に、データセンターの電力消費を28%削減すると発表しました。
サーバー内部に血管のようにパイプを通し、チューブで包んでAIアクセラレータを冷却するという、革新的な液冷方式が導入される予定です。
またジェンスン・フアンCEOは、液体冷却の次のステップとして、AIアクセラレータを特殊液体に直接浸す「液浸冷却(Immersion Cooling、イマージョンクーリング)」方式についても、サプライヤーと共に開発を進めていると明かしました。
HVAC市場は今後5年で1,000億ドル規模に成長
データセンターで発生する熱を管理する空調・換気・冷暖房(HVAC)市場は、今後5年以内に1,000億ドル規模に成長すると予想されています。
世界のHVAC市場では、ジョンソンコントロールズ(Johnson Controls, アイルランド)、トレイン(Trane, 米国)、ダイキン(日本)、キャリア(Carrier, 米国)などが主要プレイヤーです。
対象をデータセンター冷却に絞ると、バーティブ(Vertiv)やGSTなどがリードしている状況です。
現在、AIデータセンターの過熱問題を最も効率的に解決するソリューションとされるのが、CDU(Coolant Distribution Unit)であり、市場ではこの分野で勝敗が分かれると見られています。
データセンターが消費する電力のうち、実に45%がサーバーの温度維持、つまり冷却に使用されています。いかに効率的に冷却を行えるかが、データセンターの性能を左右する鍵となっているのです。
中国が挑む「宇宙データセンター」という新戦略
中国は異なるアプローチでデータセンター冷却に挑戦しています。
それが「三体コンピューティング・コンステレーション(Three-Body Computing Constellation)」と呼ばれる宇宙データセンターです。
地球軌道上に2,800基の衛星を相互接続し、AIデータセンターを宇宙空間に構築するというプロジェクトです。
2025年5月14日、この計画に必要な12基の衛星が実際に打ち上げられました。
宇宙空間はほぼ真空状態で、空気対流がありません。そのため、冷却装置なしでデータセンターを稼働させることができます。
データセンターで最も電力を消費する冷却装置が不要になることで、太陽光だけで必要なエネルギーを自給自足できるようになります。
セキュリティ面でも、地上の通信インフラに依存せずに宇宙でAIモデルを稼働させることで、地上からのハッキングが不可能な構造となり、安全性が大きく向上します。
AIを稼働させる宇宙データセンターでは、2,800基の衛星を接続することで、毎秒1エクサフロップスの性能を発揮できるとされています。
ちなみに、現在世界最速のスーパーコンピュータは、米国ローレンス・リバモア国立研究所の「エル・キャピタン」で、毎秒1.72エクサフロップスです。
宇宙AIセンターはエル・キャピタンより低性能ですが、2020年まで世界1位だった日本の「富岳」は毎秒0.51エクサフロップスであり、それよりは高性能です。
AIデータセンターの拡大と冷却技術の進化が市場のカギに
AIデータセンターの急増と、それに伴う発熱の問題が拡大する中、冷却技術の重要性がかつてないほど高まっています。
中国が挑む「宇宙データセンター」は、AI市場のゲームチェンジャーとなる可能性があり、その成否を注視する価値があります。