中国共産党はゲームを「精神的アヘン」と規定し、厳しく規制しています。
その背景には、ゲームそのものよりも、ゲームを通じて形成されるネットワーク、つまり人と人とのつながりが危険だと見なしていることがあります。
中国では12歳未満の子供はゲームを完全に禁止されており、18歳未満でも金曜日・土日・祝日の午後8時から1時間だけオンラインゲームが許可されています。
これに加えて、中国の大手企業テンセントは、金曜日〜日曜日の午後8〜9時だけゲームができるよう、独自の追加規制を導入しています。
テンセントは本人確認手続きも非常に厳格です。
通常のログイン方法に加え、ゲームにアクセスするには顔認証による本人認証が必要です。
これは、保護者名義で登録してプレイ時間制限を回避する未成年を取り締まるためと説明されていますが、実際にはゲーム利用者全体の顔情報を収集し、IPアドレスを通じて位置情報まで追跡していることから、ネット上のあらゆる動きを把握するためだと見なされています。
中国の警察はいつでも民間人のスマートフォンを調査でき、インストールされたアプリや写真などの個人情報を自由に閲覧できます。
中国は個人に対する規制が厳しい国ですが、企業に対してはさらに厳格です。
そこに登場するのが「黄金株(Golden Share)」という仕組みです。
黄金株とは何?
黄金株とは、保有株数や金額に関係なく、重要な意思決定に対して拒否権を行使できる特別な株式を指します。
たった1株でも株主総会の決定に拒否権を持つことができるため、絶対的な権力を行使できる手段です。
この制度を初めて導入したのはイギリスで、1984年にイギリスの国家戦略企業であった通信会社を敵対的買収から守るために導入されました。
しかし、その権限の強さから株主平等の原則に反するとして、イギリスおよびEU全体で廃止されました。
それにも関わらず、中国共産党はこの制度を積極的に導入・活用しています。
たとえば、中国のサイバースペース管理局(CAC)は、アリババの株式1%を保有しています。
一見すると微々たる数字ですが、保有しているのは黄金株であり、実質的には企業全体に対する支配力を持っていると見なされます。
中国版X(旧 Twitter)であるWeiboや、テンセント、TikTokも同様に中国共産党が黄金株を保有しています。
共産党が黄金株を通じて支配権を確保している企業は、ゲーム会社、ニュース・コンテンツ会社、そして個人情報を大量に保有するアリババのようなビッグテック企業です。
TikTokの親会社であるバイトダンスの場合、中国の国営ファンドが200万元(約4,000万円)を出資して1%の黄金株を取得しました。
この黄金株を通じて、取締役3人のうち1人を指名する権限を獲得し、そのポジションには共産党の幹部が就任しました。
幹部はTikTokの投資計画・買収・利益分配に関する拒否権を持ち、さらにコンテンツの検閲を担当する編集長を指名する権限も持っています。
このようにして、国営でも民営でもない新たな形態の中国企業が、黄金株を武器に誕生しているのです。
タイトルはトランプの鉄鋼関税なのに、なぜ中国の話ばかりなのか?と思われたかもしれません。
それは今回のUSスチール買収問題へのアメリカの対応が、中国と非常によく似ているからです。
トランプが「買収」ではなく「投資」と主張する理由
日本製鉄によるUSスチールの買収問題において、トランプはこれを「買収」ではなく「投資」だと表現しています。
その理由として、「USスチールはアメリカによって統制されており、取締役会も管理されている」と述べました。
この発言だけを聞いても、何のことかよく分からないかもしれません。
しかし、共和党内の動きを見ると、その背景にある構造が見えてきます。
共和党のマコーネル上院議員はインタビューで、「アメリカ政府がUSスチールの黄金株を保有することになる」と主張しました。
つまり、アメリカ政府は黄金株を通じて、USスチールの取締役の一部を推薦し、国家利益に影響する取締役会の決定に拒否権を行使する構えです。
日本製鉄はUSスチールに170億ドルを投資し、従業員の解雇は行わないと約束しています。
その見返りとして、トランプは鉄鋼に50%の関税を課すことで、USスチールがアメリカ国内で価格競争力を持てるようにしました。
カナダ、メキシコ、ブラジル、日本、韓国などは、毎年大量の鉄鋼をアメリカに輸出し利益を上げてきましたが、50%もの関税が課されれば、アメリカ市場での価格競争力を失うのは避けられません。
今後、アメリカ国内で製鉄所を新設する動きはあるものの、稼働までには時間がかかるため、当面はアメリカ国外の鉄鋼企業にとって厳しい状況が続くと見られます。
一方、USスチールをはじめとするアメリカの鉄鋼企業は株価が大きく上昇するなど、大きな恩恵を受けています。
アメリカの中国化
もしアメリカ政府が本当にUSスチールの黄金株を取得するのであれば、トランプの「買収ではなく投資」という発言は間違っていないことになります。
日本製鉄がUSスチールを買収したとしても、アメリカ政府の統制下にある限り、実質的には「投資を受け入れただけ」に等しいとも言えるでしょう。
最近は、アメリカのやり方を見ていると、もはや中国との違いが見えにくくなってきている印象さえあります。