充電不要の時代が来る?ダイヤモンドバッテリーと放射性廃棄物の再利用最前線

2023年6月、アメリカを訪問したインドのモディ首相は、バイデンに7.5カラットの大きなダイヤモンドを贈りました。
7.5カラットというと非常に高価のように見えますが、実は天然のダイヤモンドではなく、インドが国家レベルで重要産業として育成している「ラボグロウン(人工合成)ダイヤモンド」でした。

ラボグロウンダイヤモンドは1950年代から作られてきました。

当初は品質が低く、工業用にしか使えませんでしたが、新たな製造方法の登場によって飛躍的に進化しました。

現在のラボグロウンダイヤモンドは、天然ダイヤモンドの1/20の価格でありながら、物理的・化学的・光学的に完全に同一の成分を持っています。

地下200kmのマントルで数億年かけて生成される天然ダイヤモンドが、ラボ(実験室)では数百時間で1カラット以上の大きなダイヤモンドが作られるのです。

ラボグロウンダイヤモンドは工業用として多く使用されていますが、ジュエリー市場やその他さまざまな分野でもその存在感を高めています。

 

1977年、アメリカ・フロリダ州のケープカナベラル空軍基地からボイジャー1号・2号が打ち上げられましたが、問題となったのが「電力」でした。

天王星付近になると、太陽光は地球の1/400にまで減少するため、太陽電池は使えません。

記事のタイトルには充電とバッテリーが書いてあるのに、ダイヤモンドの話ばかりしていて不思議に思われたかもしれません。
実は、このボイジャー探査機が直面した問題を解決したのが、3次電池だったのです。


3次電池とは何?

電池は一般的に、1次電池・2次電池・3次電池に分類されます。

  • 1次電池は一度だけ充放電が可能な電池で、使い捨ての乾電池などです。
  • 2次電池は充電して再利用できるバッテリーで、スマートフォンや電気自動車に使用されます。
  • 3次電池とは、燃料を注入すれば自ら電気エネルギーを生成する「燃料電池」のことです。

宇宙空間では重力も摩擦もほとんどなく、少しの力で進むことができますが、宇宙船の機器を動かすには電力が不可欠です。

ボイジャー1号・2号は、プルトニウム238から放出される放射線を使って電力を得る、原子力の3次電池を搭載していました。
ちなみに、プルトニウム238の半減期は87年です。
人間の感覚では87年は長いと思えるかもしれませんが、宇宙探査のスケールでは87年は決して長くはありません。
むしろ時間が経つにつれて性能が低下するため、電力を節約しながら機能を一つずつ停止させていかなければなりません。


放射性廃棄物を利用した電池の開発

イギリスのブリストル大学の研究チームは、プルトニウム238ではなく、原子力発電所から出る放射性廃棄物を利用した新しい電池を開発しました。
2016年には、放射線源としてニッケル63を使用する電池のアイデアを発表し、プロトタイプの製作にも成功しました。

2024年7月8日、中国のベタボルト(Betavolt)社は、イギリスの研究チームの論文を元に「BV100」という3次電池を発表しました。

コインよりも小型のバッテリーで、電子機器はもちろん、電気自動車など様々な分野での応用が可能だと主張しています。

BV100は3Vの電圧と100µWの出力を持ち、従来のリチウム電池に比べて10倍以上のエネルギー密度を実現したとされています。
ニッケル63の放射性崩壊エネルギーを電流に変換することで、50年間の使用が可能とのことです。
ベタボルトは2025年末までに出力を1Wまで高めたBV100の量産を計画しています。

出力が上がれば、数十年間充電不要のスマートフォンやドローン、医療機器、超小型ロボットなどが登場する可能性があります。
さらに、-60℃から+120℃までの過酷な温度環境でも安定的に動作し、火災や爆発のリスクもありません。
バッテリー寿命が尽きると、ニッケル63は銅へと変化し、環境への影響も極めて小さくなります。

 


炭素14を活用した“ダイヤモンドバッテリー”

英国原子力庁(UKAEA)はブリストル大学と共同で、ニッケル63よりも進化した「炭素14ダイヤモンドバッテリー」を開発しました。
これは、原子炉の減速材として使われていた黒鉛から炭素14(Carbon-14)を抽出して使用するものです。

炭素14が放出する放射線は短距離放射線であり、波長が短いため遠距離には影響を与えません。

この短距離放射線を、他の物質で覆えば、外部に放射線が漏れることはありません。
そして、その放射線を放つ炭素14と同じ「炭素」で構成され、世界で最も硬い物質が「ダイヤモンド」なのです。

研究チームは、炭素14をダイヤモンドで覆った電池を開発しました。
天然ダイヤモンドでは不可能な構造ですが、人工ダイヤモンド技術の進化により実現可能となりました。
ラボグロウンダイヤモンドは実験室で成長させるため、炭素14を包み込む形での製造が可能なのです。


5,730年の半減期を持つ究極の電池

この炭素14をラボグロウンダイヤモンドで覆ったバッテリーは、半減期が5,730年です。
これは、ほぼ永久機関に等しいといえます。
原子力発電によって生まれる使用済み核燃料(核廃棄物)が、数千年持続するバッテリー資源として再生されるのです。

ダイヤモンドで密閉された空間内で電力が生成され続けるため、メンテナンスも不要となります。

2024年12月、イギリスの研究チームは1989年に運転停止となったバークレー原子力発電所の放射性廃棄物を再利用し、プロトタイプの製作に成功しました。

中国のノースウェストノーマル大学も炭素14を活用した類似技術を研究しており、アメリカのCity Labs、Kronos Advanced Technologies、Yasheng Group、イギリスのArkenlightなども競争に参入しています。

 


 

50年間充電が不要な電気自動車が登場すれば、非常に魅力的な製品でほしいですね。

ラボグロウンダイヤモンドの進化がバッテリー分野に影響を与えているように、

世の中には一生解決できなさそうな問題も、意外なところに答えが隠れているのかもしれませんね。