スタバの業績不振の理由

スタバの業績不振

アメリカのスターバックスの業績が最近ずっと芳しくないため、その状況を整理してみたいと思います。


スターバックスの始まりと成長、そして最近の不調

スターバックスは1971年、米国・シアトルの小さな店舗からスタートしました。
当初はコーヒー豆を販売するだけの小規模な店舗にすぎませんでしたが、1981年にハワード・シュルツ(Howard Schultz)が顧客として訪れ、そのコーヒーの味に魅了されて入社したことからスターバックスの伝説が始まります。

その後、彼はイタリア旅行中に立ち寄った現地のコーヒーバーにインスピレーションを受け、カフェを「会話と交流の場、職場と自宅の間にある第3の場所」として再定義し、当時3店舗しかなかったスターバックスを全世界に数万店舗を展開するグローバルブランドへと成長させました。

以前のフェンタニル関連記事でも触れましたが、アメリカのスターバックスはシアトル、ロサンゼルス、ワシントンなどの主要都市にある店舗16ヵ所を閉店しました。

その理由は、フェンタニル中毒者が店内に入り込み、従業員や顧客に危害を加える事件が増加したためです。

アメリカでフェンタニルが蔓延した結果、店内で会話や交流を楽しむ雰囲気が失われつつあります。

さらに、コロナ以降在宅勤務拡大した影響で、オフィスビルに入居しているスターバックス店舗にも顧客の減少が及びました。

価格面の問題もあります。
2020年にはスターバックスのラテ1杯は3.95ドルでしたが、現在は4.95ドルです。
ここに税金(8.25%)を加えると5.36ドルになり、さらにチップを支払えばより高額になります。
他の低価格コーヒーと比較して、価格差が大きく開いてしまったのです。


中国で登場した強力なライバル「ラッキンコーヒー(Luckin Coffee)」

2024年9月時点で、スターバックスは世界に40,199店舗を展開しています。
このうち、中国国内の店舗数は7,596店と非常に高い比率を占めています。

そこへ登場したのが、中国の強力な競合「ラッキンコーヒー(瑞幸咖啡、Luckin Coffee)」です。
ラッキンコーヒーは2017年10月に北京で第1号店をオープンしました。
スターバックスよりも安価で同等の品質のコーヒーを、オンライン注文とデリバリー中心に販売するという戦略を打ち出しました。

スターバックスが1杯33元で販売していたのに対し、ラッキンコーヒーは11元で販売し、約1/3の価格で競争を仕掛けてきました。
ラッキンコーヒーは開店後わずか2年足らずで全国に2,000店舗を展開し、2019年5月にはNASDAQに上場することになります。


アメリカの空売りファンドが粉飾決算を暴露

アメリカのヘッジファンド「マディ・ウォーターズ・リサーチ(Muddy Waters Research)」は、中国企業の不正を見抜き、空売りで利益を得ることで知られており、「中国企業の死神」とも呼ばれている会社です。
このマディ・ウォーターズがラッキンコーヒーをターゲットにします。

ラッキンコーヒーの主要店舗980ヵ所を対象に、1,000人以上の調査員を派遣し、現場で売上を確認しました。
調査員は店頭で販売されたコーヒーの数量を直接カウントし、マネージャーのグループチャットにも潜入して情報を集めていきました。

その中で、注文番号に不審な点があることが判明します。
たとえば、280番の次が281番ではなく、284番、286番と飛び飛びになっていたのです。
番号は飛ばしているにもかかわらず、1日の売上は最後の注文番号に単価を掛けて計算されていました。

25,843人分のレシートを1枚ずつ確認した結果、売上を2倍以上に水増しする粉飾会計の証拠が見つかりました。
マディ・ウォーターズはこれらの証拠を一気に公開し、最終的にラッキンコーヒーは2020年6月26日、NASDAQから上場廃止されます。


アメリカでは上場廃止、中国ではむしろ成長

ラッキンコーヒーがNASDAQから上場廃止されたことで、ラッキンコーヒーに投資したアメリカ人投資家の投資資金は紙くず同然になりました。


しかし、ラッキンコーヒー自体は潰れたわけではありませんでした。

ラッキンコーヒーは「アメリカの圧力でナスダックから上場廃止されたが、損をしたのはアメリカ人投資家だけで、ラッキンコーヒーには何の問題もない」として、愛国心を訴える世論を形成しました。
これが功を奏し、店舗数は減るどころかさらに増加し、ついには中国国内でのスターバックスの店舗数を上回ることになります。

2024年時点で中国のスターバックス店舗数が7,596店であるのに対し、ラッキンコーヒーは21,343店と、約3倍もの規模に拡大しています。

さらに、習近平の側近が2億4,000万ドルでラッキンコーヒーの全株式を取得し、事実上、中国政府が実質的な支配株主となっています。


アメリカでも中国でも苦戦するスターバックス

スターバックスは現在、アメリカでは高価格と薬物中毒者の問題に直面し、中国ではラッキンコーヒーなどの低価格競合との戦いで売上が伸び悩んでいます。

アメリカのスターバックスは2024年9月にCEOを交代し、「Back to Starbucks(原点回帰)」をスローガンに、オプション追加料金の引き下げや、顧客が長く滞在できる快適な空間づくりに回帰しようとしています。

一方、日本のスターバックスは、あえて椅子を硬くしたり、店舗を狭くしたりしてテイクアウト中心の回転率を高め、オプション価格を引き上げて営業利益率を高める戦略をとっています。

スターバックスがかつての栄光を取り戻せるかどうか、そしてアメリカと日本で異なる戦略のうち、どちらが正解なのかが注目されます。

現時点では、日本のスターバックスは絶好調である一方、アメリカのスターバックスは苦戦が続いています。