5月31日、トランプは自身のSNSで「中国が我々との合意事項を完全に違反している」と発言しました。
トランプは中国が具体的に何を違反したのかについては明言しませんでしたが、ジェイミソン・グリアUSTR代表の発言からその内容を推測できます。
グリアは「中国の行動は全く容認できない。一部の非関税措置の撤廃を遅らせており、期待されていた中国からの重要鉱物の供給も見られない」と述べました。
つまり、トランプが指摘した中国の合意違反とは「レアアース」であり、中国が7種類のレアアースに対する対米輸出規制を依然として解除していないことがわかります。
中国はすでにレアアースを武器化する法的枠組みを整備しています。
2020年12月には、レアアースを含む特定の物品や技術の輸出を制限できる「輸出管理法」を制定しました。
さらに、2024年12月には、西側諸国に輸出されるレアアースがどのように使用されるかについて、輸出業者に対し詳細かつ段階的な追跡情報の提出を義務付けました。
国有化と重要レアアース「ディスプロシウム」
中国はレアアース採掘および生産企業を国有化しています。
これらの工場で精製されるレアアースのほとんどは「ディスプロシウム」です。
ディスプロシウムは、以前の記事でも取り上げましたが、レアアースの中で最も重要な重希土類元素であり、AI向け半導体の製造や、アメリカのF-35ステルス戦闘機の製造など、戦略的に極めて重要な分野で使用されます。
そして、その世界生産量の99.9%を中国が占めています。
さらに中国は、レアアースの採掘および精製技術を国家機密に指定し、厳重に管理しています。
実際に、レアアース関連の労働者が外国に情報を漏らしたとして懲役11年の判決を受けた事例もあります。
トランプとグリアの反応を見ても、レアアースは現在のアメリカにとって大きな弱点であることは間違いないです。
重希土類の脱中国が視野に
しかし最近、オーストラリアのレアアース企業「ライナス・レアアース(Lynas Rare Earths)」が、6月から重希土類であるディスプロシウムとテルビウムをマレーシアで生産開始すると発表しました。
ここで重要なのは「発見」ではなく「生産」を開始するという点です。
これまでディスプロシウムはミャンマーや中国で採掘され、中国でのみ精製されてきました。
6月からは、ついに中国以外の地域で初めて商業生産が始まるのです。
ライナスはオーストラリアの企業ですが、アメリカ国防総省から重希土類の精製工場建設に対し2億5800万ドルの支援を受けた企業でもあります。
現在、ライナスの重希土類精製工場はアメリカのテキサス州に建設中です。
アメリカのレアアース独立と今後の展望
ついにアメリカが、中国に100%依存していた重希土類からの脱却に向けて前進する姿が見えてきました。
マレーシアでの採掘とテキサスでの精製という体制が整えば、別の重希土類鉱山があるグリーンランドの重要性は、当面の間低下するものと思われます。
トランプとしては、6月中にライナス・レアアースがレアアース生産に成功するまで時間を稼げば良い状況です。
レアアースから脱中国できたアメリカが、今後中国に対して攻撃的なスタンスを取るのか、それとも友好的な関係を築いていくのか、その行方に注目が集まります。