ウォーレン・バフェットがサムライ債を発行する理由(日本の総合商社)

サムライ債とは、外国企業が日本で円建ての社債を発行して資金を調達することを指します。
円で借りたお金は、当然返済も円建てで行う必要があります。

日本は長年にわたり低金利が続いていたため、外国企業がサムライ債で調達した資金を自国通貨に両替し、自国内で使うケースが多く見られました。

債券の満期時には、返済のために自国通貨を再び円に両替する必要があります。

しかし、日本の金利が上昇すると、円で借金をしていた企業は返済時の負担が一気に増加します。
2024年8月に資産市場で大暴落が起きた背景にも、日本の金利上昇が予測されたことで、返済負担を避けるために保有資産を急いで売却し円に換える動き、いわゆる「円キャリートレードの巻き戻し」が連鎖的に起きたことがありました。


バフェットは他と違うやり方でサムライ債を活用している

ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイもサムライ債を発行していますが、その使い方は一般的な企業とは全く異なります。
バフェットはサムライ債で調達した資金を、日本株の購入に直接充てているのです。

つまり、日本で調達した円資金を米ドルに換えず、そのまま日本国内で投資をしているため、為替リスクが一切ありません
株式を保有し、サムライ債の返済時期が来たら、それを売却して返済すればよいのです。


現金が潤沢でもあえて借金をして投資する理由

バークシャー・ハサウェイは過去最高水準の現金保有を誇っています。
それにもかかわらず、バフェットはその現金を使って日本株を買うのではなく、わざわざサムライ債を発行して円資金を調達し、投資に充てているのです。

バークシャーは2023年6月に11億ドル、11月に8億ドル、2024年4月に17億ドル、同年10月に19億ドルのサムライ債を発行しました。
3年から30年にわたる長期固定金利(平均0.8%)での発行だと言われています。

この資金で、バークシャーは日本の5大総合商社の株式を継続的に買い増しています。
2025年3月に発表された株式保有状況によると、バークシャーの保有比率は三井物産 9.82%、三菱商事 9.67%、丸紅 9.3%、住友商事 9.29%、伊藤忠商事 8.53%となっており、いずれも10%目前に迫っています。


10%の壁と日本の外為法

専門家の多くは、バークシャーの保有比率は9.9%で止まるだろうと予測していました。
というのも、日本の外為法では外国人投資家が10%以上の株式を保有する場合、事前の届出と開示義務が生じるからです。

この事前届出のプロセスが公になると、他の一般投資家が先回りして株を買い、バークシャーの平均取得価格が上がってしまうリスクがあります。


バフェットは長期保有と10%以上の保有を明言

しかし、2025年2月22日に発表された株主への手紙の中で、ウォーレン・バフェットは日本の総合商社株の保有比率を10%以上に引き上げると明言しました。
さらに、日本の総合商社株を数十年にわたって保有する長期投資計画も宣言しました。

バフェットが長期保有の理由の一つとして挙げたのは、「日本の総合商社は米国企業よりも株主還元が優れている」という点です。

日本の5大商社が2023年度(2023年4月〜2024年3月)に実施した株主還元(配当や自社株買い等)の総額は1兆9,000億円に上ります。
三菱商事は配当に2,896億円、自社株買いに6,000億円、合計で8,896億円を株主還元に投入しました。
三井物産は3,765億円、伊藤忠商事は3,314億円、丸紅は1,626億円、住友商事は1,527億円と、他の商社も高い株主還元実績を記録しました。
これは、2023年度の純利益の41%を株主還元に充てたことを意味します。


さらに続くサムライ債発行の動き

2025年4月2日、日本経済新聞はバークシャー・ハサウェイが新たなサムライ債の発行準備に入ったと報じました。
これは2024年10月以降で初めてとなる発行計画で、主幹事はバンク・オブ・アメリカとみずほアメリカズが選定されたとされています。

サムライ債の発行が予定通り進めば、2025年6月から7月にかけて、総合商社株のさらなる買い増しが行われると予想されています。


超低金利・円建て・為替リスクゼロの賢い戦略

ウォーレン・バフェットは過去最高の現金保有額があるにもかかわらず、0.8%という超低金利で借り入れを行い、投資に活用しています。
円建て債券で資金を調達し、日本株を購入しているため、為替リスクも存在しません。

こうした細やかな戦略と徹底した計算が投資家には必要なのかもしれません。