カバードコールETFの落とし穴 ー 長期投資に向かない理由

前回の記事では、レバレッジETFの仕組みを解説し、なぜ長期投資に適していないのかを説明しました。
今回は、同じく多くの人がその仕組みを十分に理解しないまま投資している「カバードコールETF」について解説します。
「高配当」というキーワードに惹かれ、キャッシュフロー獲得手段としてカバードコールETFに長期投資を考える方々も多いですが、なぜ長期投資に適さないのか、見ていきます。


カバードコールとは?まずは「コールオプション」から

カバードコールについて調べると、「原資産(株式、債券、通貨など)を保有しつつ、コールオプションを売る戦略」などと説明されています。
しかし、一般の人にとっては非常に分かりにくい内容です。
まず、この定義を理解するためには「コールオプション」を理解する必要があるので、その説明から始めます。

 


コールオプションの具体例

コールオプションとは、「将来のある時点に、特定価格資産を購入することができる権利」です。

例えば、私がマイクロソフトの株を1株450ドルで買ったとします。
1ヶ月後にマイクロソフトの株価が480ドル未満だろうと予測し、Aさんに「1ヶ月後(将来のある時点)に私の持つ株を480ドル(特定価格)買える権利(コールオプション)」を売却したとします。

この権利を買うには対価(=オプションプレミアム)が必要なので、私はAさんから10ドルを受け取ります。

  • 1ヶ月後にマクロソフトの株価が460ドルだった場合、私の予測は的中し、株価が480ドル未満になりました。
    Aさんは480ドルで株を買う権利を使うメリットがないため(現在の株価が460ドルだから)、オプションを放棄します。
    その結果、私は10ドルのオプションプレミアムの分だけ得をし、Aさんは10ドルの損失を被ります。

  • 逆に、1か月後にマクロソフトの株価が500ドルだった場合、私の予測は外れ、株価が480ドル以上になりました。
    Aさんは480ドルで買える権利を行使し、私は本来500ドルで売れる株を480ドルで売ることになります。
    この場合、Aさんはオプションプレミアムの10ドルを差し引いても10ドルの利益になります。
    私は450ドルで買った株を480ドルで売ったので30ドルの利益+10ドルのプレミアムで合計40ドルの利益となります。
    ただし、もしオプションを売らずに500ドルで売っていれば50ドルの利益だったため、10ドル分は機会損失になります。


カバードコール戦略の基本

コールオプションの概要が分かってきたので、カバードコールの定義をもう一度確認してみます。
カバードコール戦略とは、特定の原資産を保有しつつ、その資産のコールオプションを売るという手法です。

  • 原資産が上がると、原資産から一定の利益が出ますが、オプション契約で決まった価格(特定価格)で売る必要があるため、それ以上の上昇分は得られません。
    その際、資産を売却することで保有資産そのものが減少します。
  • 逆に原資産が下落した場合は、原資産で損をするものの、オプションプレミアムがある程度それを補填してくれます。

つまり、上昇相場では利益を最大化できず、下落相場では損失をある程度補填するものの原資産自体の価値が下がるため損失は防げないという「中途半端な商品」となってしまいます。


カバードコールが効果的な相場とは

カバード・コール戦略が最も有効なのは横ばい相場、レンジ相場のときです。

レンジ相場


原資産が大きく上がりも下がりもしないとき、コールオプションのプレミアム収入がそのまま利益になります。
カバードコールETFは、このオプションプレミアムを基に配当金を支払っているのです。

しかし、ほとんどの人は今が上昇相場か、レンジ相場か、あるいは下落相場かを正確に判断することはできません。


S&P500 ETFとのシミュレーション比較

S&P500指数を追従するETF(SPYやVOOなど)と、S&P500を原資産とするカバードコールETFを比較したシミュレーションがあります。

1988年から2023年までのデータによると、
S&P500 ETFへ直接投資した場合は年平均9.6%のリターンでした。
一方、S&P500を原資産とするカバードコールETFは配当を含めても年平均8.2%にとどまりました。

つまり、長期的に右肩上がりの資産に投資するなら、カバードコールETFよりもその資産自体にに直接投資したほうが良いということです。


カバードコールETFの高コストにも注意

カバードコールETFを購入する際、もう一つ考慮すべきなのが「運用コスト」です。
通常、カバードコールETFの運用手数料は年1%前後です。

それに対して、VOO(S&P500連動型ETF)の年間運用手数料はわずか0.03%です。
つまり、カバードコールETFは手数料が33倍も高く、しかも長期投資ではリターンが劣る商品になってしまうのです。


カバードコールETFを正しく理解して使い分けましょう

カバードコールが悪い戦略というわけではありません。
仕組みを正しく理解し、相場状況に応じて短期的に運用すれば有効な戦略となる場合もあります。


ただし、カバードコールETFの配当金は、原資産の将来の値上がり益をオプションとして売った対価です。
一見、高配当に見えるこの商品も、実は資産の成長を犠牲にした結果であるという点を忘れてはいけません。

「高配当ETFだから、老後のキャッシュフローのため買う」というアプローチは危険です。

金融商品はその仕組みをよく理解した上で、慎重に判断し投資する必要があります。