2025年4月15日、中国工業情報化部(MIIT)は「電気自動車用動力蓄電池の安全要件」(GB38031-2025)という強制的な国家標準を正式に発表しました。
この規格は2026年7月1日から発売される新しい電気自動車に適用され、既存の電気自動車は2027年7月1日までテストに合格する必要があります。
勧告ではなく、いきなり強制的に政策を進める点が中国らしいですね。
電気自動車用動力蓄電池の安全要件を見ると、大きく3つを強調しています。
- 一つ目は熱拡散(thermal runaway)に対するテストの強化です。
2026年7月1日からすべてのバッテリーに3つのテスト(外部加熱、釘刺し、内部加熱)を行い、合格しなければなりません。
今回特に強化されたのは内部加熱テストです。
内部に短絡などで問題が発生しても爆発しないこと、また2時間程度温度が60度以上に上昇しないことをテストします。
有害な煙が室内に入り込み、人に害を与えてはいけないという部分も追加されました。
2020年に作られた従来の規格では、「爆発の5分前まで警報」だけを要求していました。
車から脱出できる時間を確保することに重点を置いたものです。
これからは、そもそも爆発に至らないことがテスト合格の基準となりました。 - 2つ目は底面衝撃(bottom impact)テストです。
この衝撃テストは、直径30mmの衝撃体で150Jのエネルギーを3回連続打撃し、バッテリーの下部保護能力を評価します。
参考までに、レンガ1つを砕くのに100~200Jの衝撃が必要なので、レンガを3回連続して砕くほどの衝撃を与えても問題がないことです。 - 3つ目は急速充電試験です。
300回以上の高速充電を続けても、爆発などの問題がないことです。
このような話をしたのは、中国のCATLがTECH DAYで画期的なナトリウム電池を発表したからです。
これまでナトリウム電池も未来の電池として注目されてきましたが、重くてエネルギー密度が低いのが問題でした。
リチウムは金属の中で最も軽い金属であり、ナトリウムはリチウムに比べて2倍重い金属なので、ナトリウムのエネルギー密度はリチウムの半分程度です。
ナトリウム電池は、自動車のように移動するものではなく、固定された装置での電池として活用価値がありました。
CATLの発表によると、中国政府の「電気自動車用動力蓄電池の安全要件」をすでにクリアしているとのことです。
CATLは今年7月に鉛蓄電池に代わるナトリウム電池である「Naxtra」を発売するそうです。
遠い未来ではなく、わずか2ヶ月後です。
今回の発表を見ると、ナトリウム電池の低エネルギー密度が大幅に改善されています。
エネルギー密度を175 Wh/kgまで上げたそうで、LFPバッテリーレベルまで近づきました。
韓国のLGエナジーソリューションも似たようなバッテリーを開発していますが、まだ性能が80Wh/kg台と言われており、開発に成功しても175Wh/kgのCATLに遅れをとっているようです。
鉛蓄電池は、既存の内燃機関車に入っているおなじみの自動車用バッテリーです。
運転エネルギーを利用して充電し、エンジンをかけ、車で電気を使えるようになります。
鉛蓄電池は寿命が短いのが問題です。
通常、3年ごとにバッテリーを交換する必要があります。
普通の鉛蓄電池を搭載した車は、1週間以上車を放置するとバッテリーが放電することを心配しなければならないのも大きなストレスでした。
CATLの新型バッテリーであるNaxtraは、1週間ではなく、1年間車を放置しても正常にエンジンがかかるそうです。
バッテリー寿命も8年まで延び、従来の3年程度だった鉛蓄電池の2倍以上になりました。
鉛蓄電池の充放電サイクル回数は500回程度ですが、これも1万回以上に伸ばしたそうです。
さらに、真冬にエンジンがかからないという問題も解決したそうです。
ナトリウム電池の2つの大きな欠点がなくなれば、メリットだけ残ります。
LFP電池の大きな欠点は気温が低いときに性能が落ちることです。
一方、ナトリウム電池はマイナス40度でも正常動作が可能です。
実際、CATLの新型ナトリウム電池は、温度がマイナス40度からプラス70度以内であれば正常に始動し、90%以上の性能が維持されるとのことです。
最近まで電気自動車の火災事件が世界的に頻発し、電気自動車に対する希望よりも恐怖のほうが大きかったと思います。
ナトリウム電池は火災に関してもはるかに安全です。
ドリルでバッテリーに穴を開けたり、のこぎりで切断したりと、最悪の環境でテストを行いましたが、火災は発生しません。
ナトリウム自体がリチウムよりも反応性が低いので、火災が起こりにくく、安全です。
最大の強みは価格です。
ナトリウムはリチウムやニッケルよりもはるかに安いです。
1kgで27円程度で、リチウムの1/50程度です。
今年7月に発売されるNaxtraの価格は、8年使用で従来の鉛蓄電池の61%水準だそうです。
CATLの新型ナトリウム電池が今回の発表通りであれば、これまでの電池が抱えていた問題がかなり解消されることになります。
性能自体はLFPバッテリーを代替するレベルであり、3元系バッテリーより少し落ちるくらいです。
性能が少し落ちても安全なバッテリーを選択する人が多いと予想されます。
私からも、次のバッテリーをナトリウムバッテリに変えたいくらいです。
一部では今回の発表が中国政府の基準に合わせるための虚勢だったという噂もあります。
みんながCATLの発表を良い意味で信じられないほど、発表内容自体が衝撃的でした。
毎日の技術の進歩に驚きです。
新型ナトリウム電池が果たして発表どおりになるのか、もうすぐで確認できそうです。