台湾のTSMCは台湾を代表する企業ですが、
最近いろいろ悩みが増えているようなので情報を整理してみました。
話が長くなりそうなので、結論だけ気になる方は最後のほうだけ見てください。
現在、台湾全体の電力の12.5%をTSMC1社が使っています。
最近いろいろ悩みが増えているようなので情報を整理してみました。
話が長くなりそうなので、結論だけ気になる方は最後のほうだけ見てください。
現在、台湾全体の電力の12.5%をTSMC1社が使っています。
現在進行中の台湾内のTSMCの工場増設を考慮すると、2030年にはTSMCが台湾全体の電力の24%を使用すると見られています。
TSMC以外にも、台湾の産業用電力需要は急速に増加しています。
台湾の主力産業である半導体がエネルギーを大量に消費する事業だからです。
2024年5月、台湾の総統・頼清徳は就任演説で台湾を人工知能(AI)の島にすると宣言しました。
半導体以上にAIも多くの電力を必要とする産業です。
台湾の電力需要は、企業需要を中心に急激に増えるということです。
台湾の競争力の一つが低い電気料金でした。
ところが最近、その電気料金に問題が発生しました。
台湾の産業用電気料金は2022年に15%、2023年に17%引き上げられ、毎年上昇しています。
2024年にも最大25%、平均15%上昇し、2025年にも同じようなレベルの電気料金の引き上げを予告しています。
特に、電気を多く使用するTSMCのような半導体企業は24年に最高引き上げ率である25%が適用され、電気代負担が高い状況です。
台湾政府は家庭用電気料金の値上げ幅を最低限にする代わりに、産業用電気料金の値上げ幅を大きくする方向で料金引き上げを進めています。
台湾TSMCの競争力の一つである電気代がその競争力を失っているということです。
このような電気料金引き上げの原因は、2016年までさかのぼります。
2016年1月、台湾の民進党が政権を取り、脱原発を推進し始めました。
当時、日本と台湾で大地震が同時に発生し、蔡英文元総統は2025年までに原発を段階的に閉鎖すると発表したのです。
蔡英文は原発をなくし、台湾のエネルギーミックスをLNG50%、石炭30、再生可能エネルギー20%で構成するという目標を掲げました。
台湾には6基の原発が稼働しており、新北市に新規原発の建設が進められていました。
6基の原発のうち5基が2019年から2024年までに順次運転を停止しました。
建設中の新規原発は、2021年の国民投票により、90%以上工事が進んだ状態で建設が中止されました。
6基の原発のうち5基が運転停止となり、台湾に残る原発は屏東県にある1基のみとなりました。
2025年5月には、最後に残った1基の原発の運転が停止される予定です。
脱原発を始める前は、台湾の電力発電に占める原発の割合は12%まで占めていましたが、まもなく原発の割合が0%になります。
台湾の悩みは、脱原発は計画通りに進んだものの、再生可能エネルギーは予想通り発電できないことです。
再生可能エネルギーを2025年までに20%まで上げると宣言したものの、現在の割合は9.5%に過ぎません。
石炭発電も環境問題で中止し、台湾はLNG発電で90%の電気を生産しています。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻でLNG価格が上昇し、LNGを100%輸入している台湾電力公社の赤字が大きく膨らみ始めました。
台湾は電気料金を上げるしかなく、2024年に総統選挙と国会議員選挙が同時にあったため、家庭用はほとんど上げることができませんでした。
これが電気料金の引き上げが産業用に集中した理由です。
TSMCは営業利益率が高いので、電気代をそれくらい払っても問題ないと思うかもしれませんが、本当の問題は停電にあります。
電力予備率が10%を下回ると、停電の可能性が高くなります。
ただでさえ電力が不足しているのに、最後の原発まで停止されてしまうと、台湾の電力予備率は7%台になると言われています。
2024年6月、Nvidia、Foxconnなどが入居している台北周辺で大規模な停電が発生したことがあります。
原発を一つずつ停止する2019年以降、数百万世帯が停電被害を受けた大規模な停電が4回も発生しています。
新しく総統に選出された賴淸德は最近、国家気候変動委員会を構成し、脱原発の放棄を主張する人物を多数含めました。
しかし、賴淸德の任期後である2030年に原発再開を議論しようというレベルなので、不確実性が高い状況です。
議論を始めても、原発事業を再開することは容易ではありません。
脱原発宣言以降、大学の原子力学科が急速に減少し、既存の人材が原発を運用する海外に転職し、人材確保が難しい状況だからです。
台湾の脱原発にはそれなりの理由があります。
台湾は日本と同じくらい地震が多い国だからです。
台湾は大きな山脈が国土の真ん中を通る国です。
台湾のほとんどの地震は太平洋に面した側で起きています。
台湾の主要都市やTSMCなどの重要な製造業は太平洋側ではなく、中国側に接する平地に建設されています。
半導体製造プロセスは、ほんの少しの停止でも、稼働中のラインのすべてのウェーハを捨てなければなりません。
地震が起きると、稼働を停止した後、少しでも問題がないかを一つ一つチェックする工程が必要で、これが全てコストになります。
台湾の場合、太平洋側で地震が起きると、再稼働に時間がかかるなどの被害はありますが、設備などには問題がない可能性が高いです。
一方、マグニチュード7以上の地震が中国方面から発生する場合、大きな被害になる可能性が高いです。
ところで、2024年から台湾に地震が頻発し始めました。
2024年4月3日、25年ぶりの最大規模の地震が台湾の太平洋側で発生しました。
2025年1月21日にも太平洋側でマグニチュード6.4の強震が発生し、TSMCのウェーハ6万枚が破損し、余震が続いています。
2025年1月30日にも5.6の地震が発生しました。
発生頻度と傾向を見ると、余震レベルではなく、超巨大地震が発生する可能性もあります。
日本と同じような地震地帯にあるため、原発事業の再開を簡単に決められない状況です。
台湾は電力不足で新規データセンターの建設承認が中止されるなど、電力不足が産業に影響を及ぼし始めています。
台湾のTSMCは、産業用電気料金の上昇と電力不足、超大型地震などがマイナス要因として悩んでいます。
台湾政府は産業用電気料金を低く維持するように努力すると言っていますが、なかなか難しい状況です。