原油価格が下落しています。
今後どうなるか、整理してみました。
今後どうなるか、整理してみました。
まず、最近の原油価格の動向から、今後どうなるのか考えてみます。
話が長くなりそうなので、結論が気になる方は最後の方を見てください。
インフレが激しかった2022年、バイデン大統領は物価を抑えるためにエネルギー価格の安定が必要で、原油価格を下げる必要がありました。
バイデンは、イランとの核交渉を妥結しイランの石油輸出禁止を解除すること、
また、サウジアラビアに石油を増産させて原油価格を下げることを狙っていました。
また、サウジアラビアに石油を増産させて原油価格を下げることを狙っていました。
環境規制などで米国内のシェールオイルの生産を急増させるのは難しいので、
外部から供給を拡大させるという考えでした。
外部から供給を拡大させるという考えでした。
上記2つの手持ちのカードの中で、
優先順位的に高いのはイランとの核交渉でイラン産の石油を市場に出させることで、
できればサウジの石油増産要求は避けたいのがバイデンの本音でした。
優先順位的に高いのはイランとの核交渉でイラン産の石油を市場に出させることで、
できればサウジの石油増産要求は避けたいのがバイデンの本音でした。
なぜなら、サウジのビンサルマンとは悪縁があったからです。
トランプは、ビンサルマンを実質的なサウジの第一人者であり、王位を継承する皇太子として待遇しました。
一方、バイデンは、ビンサルマンの記者カショギ殺害やシーア派指導者ら処刑などを強く批判し、ビンサルマンをサウジの代表として待遇しませんでした。
そのため、バイデンはイランとの交渉を優先的に進めました。
ところで、イランとの核交渉は米国がするのではなく、国連安全保障理事会とイランが行うこととなっています。
イラン核交渉は、国連常任理事国(米国・英国・フランス・ロシア・中国)&ドイツとイランとの間で締結された核抑止策を復元する性格だからです。
交渉がほぼできた時点で、ロシアが核交渉妥結時にイランに対する全面的な経済制裁の解除を主張してきました。
西側諸国は、経済制裁が解除されたイランを通じてロシアがエネルギーを迂回輸出しようとしているのではないかという疑念を抱くようになりました。
最終段階にあった核交渉は、ロシアの無理な要求で破談となりました。
バイデンはイランを諦めて、サウジに駆けつけなければならない状況になってしまいました。
ビンサルマンにとって、バイデンが自分を批判したのは愉快なことではありませんでしたが、到底受け入れられないほどではありませんでした。
しかし、バイデンが大統領就任後、ビンサルマンのプライドを傷つける事件が発生します。
2021年2月18日にかかってきた一本の電話から問題が始まります。
ビンサルマンに電話をかけたのは、アメリカの国防長官でした。
バイデンが「私はビンサルマンではなく、ビンサルマンの父親である国王を相手にする」と明らかにした翌日のことです。
バイデンが直接電話せず、国防長官が電話したということは、ビンサルマンをサウジアラビアの実質的な第一人者として待遇しないということです。
1985年生まれの血気盛んな年齢でプライドの塊であるビンサルマンは、この時からアメリカに反発し始めます。
ビンサルマンは、バイデンが直接サウジアラビアに訪問したにもかかわらず、バイデンが希望するレベルの石油増産を拒否し、バイデンを手ぶらで帰国させました。
その後、ビンサルマンは運用実績もなく、運用実力が検証されていないジャレッド・クシュナーに3000億円相当額を投資します。
ジャレッド・クシュナーは、トランプの婿です。
ビンサルマンは2022年からトランプに賭けたのです。
ビンサルマンは現在、岐路に立っています。
一つの手は、トランプの意図に合わせて適度な増産する方法です。
適度な増産をすれば、原油価格は下向きに安定してしまいます。
サウジアラビアは1バレル当たり85ドルの原油価格でないと財政が赤字になる国です。
サウジアラビアは1バレル当たり85ドルの原油価格でないと財政が赤字になる国です。
展開中の超大型事業も多いので、サウジアラビアは高い原油価格が必要な状況です。
OPEC+の協力による減産も容易ではありません。
OPEC+諸国はア米国の顔色をうかがうために過去のようなサウジへの協力が難しく、サウジが減産して原油価格が上がればその恩恵だけ受けたいと思っています。
ビンサルマンは2015年にプーチンと力を合わせて実行した「原油価格のチキンレース」を再演してみたくなるかもしれません。
まず、上記の「原油価格のチキンレース」について先に解説します。
2014年の夏に、アジア地域の石油販売量が急減し、石油価格が暴落したことがあります。
当時、中国の景気減速が始まっていたからです。
2014年10月に原油価格が84ドルまで下落しましたが、
さらに米国のシェールオイルの供給も拡大し、11月の原油価格は77ドルまで下落しました。
さらに米国のシェールオイルの供給も拡大し、11月の原油価格は77ドルまで下落しました。
以前は、このような場合、OPECが供給量を調整し、価格を90ドル付近に戻していました。
2014年11月、オーストリアのウィーンでOPEC会議が開催されました。
会議の数日前に到着したサウジアラビアのアル・ヌアイミ大臣は、メキシコのコールドウェル大臣と会議を行います。
メキシコは当時、経済成長の重要な時期であるため、石油生産量を減らすことはできないという意見を述べます。
ロシアのエネルギー大臣も、ロシアは生産量を減らすつもりは全くなく、サウジアラビアが減らしてくれることを望んでいると回答しました。
2014年11月24日にOPEC閣僚会合が開催され、サウジアラビアは産油国が皆で石油生産量を減らそうと提案します。
しかし、産油国はすぐにお金が必要だったので、誰も産油量を減すことを望まない態度を示しました。
サウジアラビアは「どの国も生産量を減らすつもりはないようだ。 それではこの会談はこれで終わりだ」と書類を持って会談場を後にしました。
サウジアラビアがいない状況で、OPEC協議は「産油量は市場に任せる」という結論で終わりました。
お金で困っていた産油国は生産量を増やし、石油価格のさらなる下落が始まりました。
2015年1月になると、原油価格は45ドルになり、下落は続き、25ドルまで下がることになります。
2016年2月、サウジアラビアのアル・ヌアイミ大臣は、「減産の痛みを分かち合う気がなければ、私たちはこれからも市場に任せ続ける」と宣言します。
当時、サウジアラビアは石油生産コストが1バレルあたり10ドルと最も低く、積み立てた財産が十分だったため、チキンレースに耐える自信があったのです。
原油の生産コストが高い他の産油国は、厳しい試練の時を迎えます。
ロシアも石油生産コストが1バレル当たり40ドル水準だったので、外貨準備額を使いながら辛うじて持ちこたえていました。
2016年9月、中国の杭州で開催されたG20会議で、ロシアのプーチンとサウジアラビアのビンサルマンが単独会談を行います。
何のやりとりがあったかは不明ですが、両者の交渉は妥結しました。
2016年9月末、アルジェリアで世界の石油供給の90%以上を担う72カ国のエネルギー関連閣僚が集まる国際エネルギーフォーラムが開催され、
ロシアを含むOPEC加盟国は別会議を行いました。
ロシアを含むOPEC加盟国は別会議を行いました。
ここで、減産合意が成立しました。
合意の2週間後、OPEC加盟国とロシアを含む産油国は、オーストリアのウィーンで再会します。
OPEC加盟国は1日120万バレルを減産し、ロシアも30万バレル、
カザフスタン・メキシコなどOPEC以外の産油国も25万バレルを減産し、
合計175万バレルを減産する合意案が作られます。
カザフスタン・メキシコなどOPEC以外の産油国も25万バレルを減産し、
合計175万バレルを減産する合意案が作られます。
この新しい合意が「OPECプラス合意」です。
それまでOPECだった会議体にロシアが加わり、OPEC+に変わる日でした。
減産は始り、原油価格は再び上昇し始めました。
減産は始り、原油価格は再び上昇し始めました。
サウジアラビアは過去の「原油価格のチキンレース」を再現したいところですが、
状況は大きく変わりました。
状況は大きく変わりました。
シェールオイルの新工法が導入され、大統領がバイデンからトランプに変わり、
米国の原油生産能力が急速に上がってきているからです。
米国の原油生産能力が急速に上がってきているからです。
原材料価格と人件費は上がりましたが、新技術の導入で、
シェールオイルの原価は1バレル当たり40ドル台まで下がりました。
シェールオイルの原価は1バレル当たり40ドル台まで下がりました。
OPEC+は最近3年間で600万バレルも減産しましたが、
米国のシェールオイルは2021年比で334万バレル増産しています。
米国のシェールオイルは2021年比で334万バレル増産しています。
しかもOPEC+の非加盟国であるブラジルとガイアナも増産に加わりました。
現在、世界の原油市場におけるOPEC+のシェアは51%と大幅に低下しています。
ブラジルの場合、2024年に40万バレルを増産し、
2025年中にも40万バレルの追加増産が行われます。
2025年中にも40万バレルの追加増産が行われます。
ガイアナは2015年から超大型油田が発見され始め、次々と生産が開始されています。
ガイアナは、2023年の29万バレル生産から、2024年は60万バレルに増え、2025年には100万バレルまで生産できると予想されています。
OPEC+の減産を米国とブラジル、ガイアナの増産が相殺しているのです。
需要面での不確定要素は中国です。
国際エネルギー機関(IEA)は、中国が本格的に経済を回し始めると、150万バレルの石油をさらに使用すると述べています。
しかし、ブラジルとガイアナが増産する量だけで80万バレルであり、
米国のシェール企業もトランプ大統領の支援を受けて生産量拡大を進めています。
米国のシェール企業もトランプ大統領の支援を受けて生産量拡大を進めています。
中国の需要拡大だけで原油価格を急騰させるのは難しい状況です。
プーチンとビンサルマンは、原油高時代を作り、安定した収益を出したいと思っています。
ロシアの原油生産コストは40ドル程度ですが、戦争費用を賄うためには原油価格を96ドル以上にする必要があります。
ビンサルマンも、既存の財政を維持に加え、NEOMなどの新事業の進めるためには原油価格を100ドル以上にする必要があります。
現在、サウジアラビアは原油価格が目標値より低い水準で推移し、財政に大きな穴が開いています。
サウジは2025年にGDPの1.6%の財政赤字が予想されましたが、最近の原油価格の下落で赤字がさらに大きくなり、3%以上の財政赤字が予想されるています。
サウジはアラムコ株を少しずつ売却し赤字財政を補填している状況です。
そんな中、2025年5月3日、OPEC+は6月の原油生産量を1日41万1千バレル増産することに合意しました。
原油価格が下がり続けているのに、原油生産量を増やしているのです。
5月にトランプがサウジに訪問する予定ですが、トランプの要求でさらに増産するという話まで出ています。
トランプの立場からすると、関税を課すことで輸入物価が高騰することが予想されるため、エネルギー価格でも安くする必要があります。
しかし、現状、サウジはトランプのために増産できるほど余裕のある状況ではありません。
最近3年間の600万バレル減産のうち、200万バレルはサウジアラビアが担当していました。
しかし、カザフスタンは油田の生産量を増やし、減産よりも国の利益を優先すると表明しています。
イラクなど他の加盟国も減産合意を守らずより多く生産しています。
結局、OPEC+は1日13万8千バレルずつ増産する計画を41万1千バレルに引き上げて維持すると発表したのです。
これに対してサウジアラビアは原油価格のチキンレースを再開し、カザフスタンとイラクに「見せしめをする」と言っています。
この2カ国は、原油の生産コストが高いうえに、減産合意を守らず、密かに原油を売り続けてきた国々です。
財政に余裕があるわけでもないため、原油安の影響を最も深刻に受けざるを得ない状況です。
サウジアラビアは原油価格のチキンレースが終わった後に、下期から原油価格上昇のための大々的な減産勝負をかけるかもしれません。
ブラジルやガイアナなどOPEC+に含まれていない国もあり、
米国もトランプの規制緩和で生産が増える傾向にある状況の中、
サウジの計画が成功するかどうかが観戦ポイントになります。
米国もトランプの規制緩和で生産が増える傾向にある状況の中、
サウジの計画が成功するかどうかが観戦ポイントになります。
現在の国際原油価格は、供給面では下落要因が大きい状況です。
短期的な上下を除けば、イランがホルムズ海峡を封鎖するほどの事件が発生しない限り、
10月頃までは下落傾向が維持されると思われます。
10月頃までは下落傾向が維持されると思われます。