2016年、イーロン・マスクは7人の科学者、エンジニアとニューラルリンクを設立しました。
人間の脳とコンピュータを直接接続する脳-コンピュータインターフェース(BCI、Brain-Machine Interfaces)技術の開発が彼らの目標です。
脳にチップを植えることを「脳インプラント」と言います。
脳インプラントは、脊椎損傷、脳卒中などで、精神的に問題ないが全身が麻痺した人々に意思表現できる方法を開発するのが1次目標です。髪の毛より細い電極を脳の運動皮質に移植して電気信号を捉え、これを外部に送って外部機器を制御します。
脳を構成している神経細胞(ニューロン)は電気信号でデータを伝達します。
この電気信号は波長を生成しますが、この波長を認識できるほど電極を近くに植えれば、脳の電気信号がわかるようになります。
理論的には、神経細胞(ニューロン)に0.006センチメートル以内に電極を植えれば、ニューロンが出す波長を受け取ることができます。
ニューロンの数が多いため、電極も多く必要です。
初期の動物実験では1,024個の電極を植え、現在は1万個以上の電極を植えています。
1万個以上の電極を手作業で植えるのは大変なので、この作業は専用ロボットが担当しています。
イーロン・マスクは、この手術で要求される速度と精度を人間は達成できないため、ロボットを利用したと述べています。
イーロン・マスクは、近いうちにロボットが優秀な外科医を超え、5年以内に最高の外科医を上回ると主張しています。
人間を対象とした手術で、ロボットはAIで脳をスキャンした後、血管に触れずに電極を植えることに成功しました。
1つの電極が1万個程度のニューロンを担当できるので、1万個の電極を植えれば1億個のニューロンが出す電気信号を捉えることができます。
イーロン・マスクのニューラルリンクはこの手術がレーシック手術ほど簡単で、後遺症もないと主張しています。
しかし植える方法が簡単であっても、手術そのものが簡単なわけではありません。
頭蓋骨を丸く切開する開頭術だからです。
頭蓋骨を丸く切開し、この穴から電極を植えた後、無線通信のための電極端末を頭蓋骨の上に装着する方式です。
当初は端末を耳に装着しましたが、最近では頭蓋骨に装着し、頭皮をそのまま覆う方式に改善されました。
頭皮に端末が覆われると、手術の有無が外部から分かりにくくなります。
端末の充電はアップルウォッチのようにワイヤレスで充電する方式です。
ニューラルリンクはこの製品を商用化し、「テレパシー」という名前で公開しました。
2023年5月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は麻痺障害がある人を対象にテレパシーを脳に移植する臨床試験を承認しました。
ニューラルリンクは、身体麻痺患者の中から臨床試験申請者を受け付け、8ヶ月で最初の臨床対象者がコンピュータチップの移植を行いました。
技術も進歩し、頭蓋骨を開けないでレーザーで微細な穴を開けて移植するようになりました。
手術後、テレパシーは正常に作動し、脳の神経信号をニューラルリンクアプリに送信し、アプリがこれを解読し始めています。
脳の電気信号を受信して解釈することができれば、電子機器などの動作も可能になります。
世界的な物理学者であったスティーブン・ホーキングは、21歳から筋肉が萎縮する筋ジストロフィーを発症し、生涯を車椅子で過ごしました。
このように視覚を失ったり、筋肉を動かせない人の脳にコンピューターチップを移植して、脳がコンピューターなどを操作できるようにすることが目標です。
イーロン・マスクは最初の患者が脳にコンピューターチップを移植され、患者が順調に回復していることをツイートしました。
2番目のニューラルリンクを移植した患者は、より改善された結果を示しています。
それはアレクスという全身麻痺の患者ですが、
考えるだけで「カウンターストライク2」を楽しむ姿が公開されました。
考えるだけで「カウンターストライク2」を楽しむ姿が公開されました。
彼は単にゲームを見るのではなく、ゲーム内で移動しながらターゲットを狙って射撃したりと、普通のゲーマーと同じくゲームを楽しんでいました。
アレックスは脳にチップを移植された後、1日で退院し、チップをコンピューターに接続して5分も経たないうちにカーソルを制御できるようになりました。
24年8月22日、マスクは「今後10年以内に何百万人もの人々にニューラルリンクチップを埋め込むことができることを願っている」と言っています。
25年にも、もう1人がテレパシーを移植し、脳に電子チップを移植した3人目の人が現れました。
イーロン・マスクは2025年内に30件程度の追加移植を行うと宣言しています。
ニューラルリンクは5億ドルの資金調達を進めており、ブルームバーグはニューラルリンクの評価額として85億ドルを予想しています。
2023年末に35億ドルの企業価値で評価されたのが、1年半で85億ドルに上昇したのです。
ニューラルリンクの最初の手術対象者である全身麻痺患者であるアルボは、1年以上考えだけで様々なゲームを楽しんでいるとのことです。
インタビューで彼は手術後1年ほど経った後、操作能力が向上し、より快適にテレパシーを使用していると明らかにしています。
筋ジストロフィーで全身麻痺と言語能力喪失状態だった3人目の手術者スミスは、話すこともできるようになりました。
過去の音声録音をもとにAIが彼の声を復元し、自分の声で話すように会話が可能になったのです。
これは言語能力に重大な損傷を受けた人々に広範囲に使用可能です。
脳卒中、脊髄損傷、脳性麻痺などコミュニケーションが困難な患者に話す機能を提供するツールです。
音声回復(speech restoration)装置は、米国食品医薬品局(FDA)から「革新機器(Breakthrough Device)」の指定を受けました。
FDAの革新機器プログラムは、迅速に先端医療機器を利用できるように開発と審査過程をスピードアップする制度です。
中国も「脳インプラント」技術で米国を追いかけています。
中国脳研究所(CIBR)と国営企業ニューサイバーニューロテックが共同開発したBeinao No.1が25年3月、3回目の人体移植を完了しました。
正常な人に移植してロボットやドローンを考えだけで操縦できるようにする研究も同時に進行中だとのことです。
つまり、産業用だけでなく、軍事用にも拡張されています。
中国の清華大学と天津大の共同研究チームは、ヘッドホンのように頭に装着する脳インプラント機器を開発し、10人にテストを行っています。
彼らが考えだけでドローンを希望の位置に移動させることに成功したと主張しました。
イーロン・マスクはニューラルリンクの技術とテスラのヒューマノイドロボット「オプティマス」を組み合わせると明らかにしています。
「脳インプラント」でも米国と中国の技術覇権競争が激しく行われるようです。
イーロン・マスクの主張通り、今年中に30人の追加手術が行われ、副作用が発見されなければ、脳移植チップは2~3年以内に商用化に入ることができそうです。
ロボットが外科医に取って代われるというイーロン・マスクの主張が実現するかどうかが観戦ポイントですね。